療養病床削減の話題

2007年3月28日付毎日新聞より、

療養病床:削減を促進 老人ホーム経営、医療法人にも容認

 長期入院する高齢者向けの医療施設「療養病床」の削減問題で、医療機関が療養病床を介護施設に転換する際の政府の支援策の全容が27日、明らかになった。禁じていた医療法人の有料老人ホーム経営を認めたり、施設改修時の融資を上乗せすることなどが柱で、来月から順次実施する。

 政府は療養病床を11年度末までに6割削減する方針だが、計画は進んでおらず、「アメ」の提供で転換を促したい考えだ。厚生労働省は28日、支援策を自民党社会保障制度調査会に提示する。

 厚労省は「療養病床の患者の多くは、医療を提供する必要性が低い」とみており、療養病床を老人保健施設など介護施設に転換する方針を打ち出している。医師や看護師の配置が少なくて済む介護施設に切り替え、医療費を抑制する考えだ。

 しかし、医療機関は転換後の経営見通しに不安を抱いており、削減は進んでいない。そこで厚労省は、支援が必要と判断。利潤追求に一定の歯止めをかけてきた医療法人にも、療養病床の転換先となる有料老人ホームや、高齢者専用の賃貸住宅経営を認める。厚労省所管の独立行政法人福祉医療機構」の融資率を90%(現行75%)に引き上げ、貸付金利も0.1%引き下げる。

 転換が進まない要因の一つには、地方自治体が「第3期介護保険事業計画」(06〜08年度)で、すでに介護施設の各年度ごとの定員数を定めていることがある。このため計画の総枠内なら、単年度に定員枠を超えることも認める。また、介護施設に改修すれば法人税を軽減し、医療機関と併設する場合は、診察室、階段、エレベーターなどの共用を可能にする。

 療養病床数はピーク時の38万床(06年2月)に比べ、約1万床減にとどまっている。昨年10月、療養病床を持つ施設を対象に厚労省が実施した調査でも「介護施設へ移行」と答えた医療機関は1割未満だった。【坂口裕彦】

療養病床の削減は厚生労働省が「50年前は家で死ぬのが当たり前だった」(厚生労働省審議官宮島俊彦氏)の大義を掲げて強力に推進している施策の一つです。大義をもう少し補足すれば、

  • 50年前は約8割が家で死んでいた。
  • 今でも約6割が自宅での死を望んでいる。
  • 病院で死ぬ風習は老人医療無料化政策の悪しき副作用である。
  • 団塊の世代が高齢化すると死者が100万人から170万に増え療養病床はとても足りない。
  • 療養病床では月に四十九万円くらいの医療費がかかるが、老人保健施設なら三十四万円、在宅サービスならもっと少なくすむ。
  • 介護保険と在宅支援診療所があるから受け皿になんの不安も無い。
よって療養病床38万床を15万床に減らすと言う事です。ごく単純にはここ5年ほどの間に23万人が病院から追い出される事になります。読まれて「トンデモナイ」と感じられる方は多いかもしれませんが、これはもう決定事項となっています。ただし劇変緩和措置として、療養病床を老人保健施設などに転換するとしています。つまりこの記事は療養病床から他の介護施設への転換の遅れを指摘した記事ということです。

遅れているので「アメ」政策が例のごとく行われるようですがピックアップしてみます。

  1. 療養病床の転換先となる有料老人ホームや、高齢者専用の賃貸住宅経営を認める。
  2. 「第3期介護保険事業計画」(06〜08年度)で、すでに介護施設の各年度ごとの定員数を定めていることがある。このため計画の総枠内なら、単年度に定員枠を超えることも認める。
  3. 独立行政法人福祉医療機構」の融資率を90%(現行75%)に引き上げ、貸付金利も0.1%引き下げる。
  4. 介護施設に改修すれば法人税を軽減し、医療機関と併設する場合は、診察室、階段、エレベーターなどの共用を可能にする。
すごいアメと言うか、なんと言うかですが、アメ以前はこうだった訳です。
  1. 療養病床の転換先は老人保健施設ないし特別養護老人ホームしか認めていなかった。
  2. 療養病床に転換しようと思っても介護保険事業計画で既に定員数が決められており、病院が独力で定員枠獲得戦争に勝ち抜かなければ転換できなかった。
  3. 国の政策のための転換であるのに、施設改修費用は75%しか公的融資を受けられず、残り25%は自己資金ないしは民間金融機関の融資を独力で交渉しなければならなかった。
  4. 医療機関と併設する場合は、診察室、階段、エレベーターなどの共用は不可能であった。
どれもすごい条件ですが、とくに最後の「診察室、階段、エレベーターなどの共用は不可能」なんて建物の大改築を意味するものですから、よくこの条件で1万床も削減できたものです。この記事だけではわかりませんが、この1万床は本当に介護施設に転換できたのでしょうか。個人的には転換できずに単に削減された病床が多いような気がしています。

またよく読めば首をかしげるのですが、介護施設の定員は「第3期介護保険事業計画」(06〜08年度)で決められているそうです。それを3年内の定員枠は変えずに単年度の定員枠を越える事を認めても、だからどうなると感じるのは私だけでしょうか。06年度は終了しているので、残りは07年度と、08年度です。これを仮に07年度で2年度分の定員枠を使い果たせば、今年度は見た目上、療養病床の削減は進むでしょうが、来年の08年度になればまったく進まなくなります。

療養病床削減政策の愚かしさは既に散々書いてきましたので今日は深く触れませんが、療養病床削減の劇変緩和策として厚生労働省が力説していた老人保健施設等の介護施設への転換も既に強力に絞り上げられている事がわかります。つまり厚生労働省は、「療養病床を介護施設に転換せよ」とアクセルをかけながら、「介護施設を作りすぎてはイカン」とブレーキをかけている事になります。

そうなると一連の厚生労働省のアメ対策の主目的は、療養病床の主たる転換先を「有料老人ホームや、高齢者専用の賃貸住宅経営」にしたいと考えるのが妥当かと考えます。なおかつ「利潤追求」を公式に認めるということですから、この「有料老人ホームや、高齢者専用の賃貸住宅経営」がどんな性質のものになるかは容易に想像がつきます。

療養病床を追い出された患者は、運が良ければ老健や特養に入れますが、それ以外の患者は金があれば「有料老人ホームや、高齢者専用の賃貸住宅経営」に入居し、金が無ければ在宅療法に向かわざるを得ません。介護地獄を避けられるのは金次第という事になります。じつに美しい国の福祉政策です。

そうそう在宅支援診療所ですが、私も医師ですから概要は知っています。あの内容の負担にどこまで開業医が耐えられるかは正直疑問です。何か象徴的な事件があれば雪崩を打って逃げ去ってもなんの不思議もありません。

今日は4月を待つ小さな話題でした。