2.18イブ

自分で2.18企画を立てておきながら、明日は急用が入りブログの更新が出来そうにありません。そのため2.18企画用に考えていたネタを今日エントリーしておきます。企画に賛同予定の皆様、張本人がこんなザマで心苦しいのですが、なにとぞ御容赦ください。

今日はやや古いネタなんですが、2007年02月13日付 共同通信からです。

日本産婦人科医会に抗議文
無資格助産反対の市民団体

 堀病院(横浜市)の無資格助産事件で、横浜地検が前院長らを起訴猶予としたことを受け、出産事故の被害者らでつくる「陣痛促進剤による被害を考える会」(出元明美代表)は13日、地検の判断後に日本産婦人科医会が発表した声明の撤回を求める抗議文を、同医会に提出した。

 声明は「(看護師らによる助産行為を禁じた)厚生労働省課長通知を撤廃した上で、周産期医療の望ましい姿が実現できるよう努力する」との内容。

 厚労省で記者会見した出元代表は「横浜地検は堀病院の違法性を認めている。産婦人科医会は通知撤廃を求めるのではなく、法に基づき医療体制の整備に取り組むべきだ」と指摘。助産行為に関するガイドラインを作成するよう求めた。

 出元代表横浜地検の判断について、検察審査会への申し立てを検討していることも明らかにした。

堀病院事件は看護師が内診行為を行った事を違法行為として、警察が50人の捜査員と共に強制捜査を行った事件です。その後同様の違反行為により確か13件の捜査が行なわれていましたが、これらをすべて起訴猶予にするという発表が先日行なわれたのを受けたものです。出元明美代表の抗議はこの一点です。

    横浜地検は堀病院の違法性を認めている。産婦人科医会は通知撤廃を求めるのではなく、法に基づき医療体制の整備に取り組むべきだ」
こんな短い報道記事ではわからないと思いますので、出元明美代表が抗議している違法性を検証します。

違法とされる法律は保健師助産師看護師法30条に基づくとされています。

助産師でない者は、第3条に規定する業をしてはならない。ただし、医師法(昭和23年法律第201号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。

では保健師助産師看護師法3条はどうかというと

この法律において「助産師」とは、厚生労働大臣の免許を受けて、助産又は妊婦、じよく婦若しくは新生児の保健指導を行うことを業とする女子をいう。

ならべて読んでもらったらわかると思うのですが、素直に読めばたしかに助産師しか助産は出来ないとなっていますが、一方で医師法の規定に基づいて行なう場合はこの限りで無いとなっています。このため医師は医師法の「医師の監督の下」の解釈に基づいて看護師に内診を行なわせていたのです。別にそう解釈してもおかしな条文ではありません。

ところがここで問題の厚生労働省通達が出ます。まず平成14年11月14日、厚生労働省医政局看護課長通知として「助産師の業務について」が出され、

下記の行為については、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)の第3条で規定する助産であり、助産師または医師以外の者が行ってはならないと解するが貴職の意見をお伺いしたい。



  1. 産婦に対して、内診を行うことにより、子宮口の開大、児頭の回旋等を確認すること並びに分娩進行の状況把握及び正常範囲からの逸脱の有無を判断すること
  2. 産婦に対して、会陰保護等の胎児の娩出の介助を行うこと。
  3. 胎児の娩出後に、胎盤等の胎児付属物の娩出を介助すること。


この様な問合せに対し、平成14年11月14日、回答として、
    貴見のとおりと解する

さらにもう一通あり、平成16年9月13日に「厚生労働省医政局看護課長通知」として「産婦に対する看護師業務について」が出されています。

下記の行為については、保健師助産師看護師法(昭和23年法律第203号)の第5条に規定する診療の補助には該当せず、同法第3条に規定する助産に該当すると解するが貴職の意見をお伺いしたい。 
  


産婦に対して、子宮口の開大、児頭の下降度等の確認及び分娩進行の状況把握を目的として内診を行うこと。但し、その際の正常範囲からの逸脱の有無を判断することは行わない。

回答として平成16年9月13日に、

    貴見のとおりと解する

この二つの通達は保健師助産師看護師法30条の中の「医師法(昭和23年法律第201号)の規定に基づいて行う場合は、この限りでない。」の医師法の規定に基づいても看護師の内診行為は違法であるとの通達です。こんな通達が法として通用するかどうかですが、法曹関係者から当時アドバイスを頂きました。

法の解釈についての省庁通達は行政府の法律解釈として統一するべきものなので、行政府の一員である検察、警察がこれに従って違法として捜査する事は可能である。そういう風に法は運用される。

省庁通達が法律違反とした事を検察、警察が違法行為として捜査起訴するのは一向に構わないとの事です。ただしあくまでも行政府の法解釈であり、これに司法府は縛られないですから、

訴訟により裁判所から「内診は助産行為ではない」あるいは「医師の指示の下で行われた看護師による内診は、保助看法30条但書によって許容されている」という確定判断を引き出すことができれば、「厚労省看護課長名による疑義照会通知」なるものはたちまち効力を失うことになります。

ちょっと煩雑ですが、行政府は違法と解釈しても司法府が認めない限り違法ではなく、通達の解釈は訴訟により無効になる可能性は十分あるという事になります。ただし国相手の訴訟となるため最高裁までの茨の道ではあります。だからこんな通達に従っての分娩は物理的に不可能であると産婦人科医会は何度も繰り返し厚生労働省に通達撤廃を交渉しているわけです。

不起訴の理由について最近話題の予算委員会答弁で法務大臣が直々に答弁しています。(勤務医 開業開業つれづれ日誌より

え〜、今ご指摘の事件でございますが、横浜地検におきまして不起訴処分をいたしました。その際に、一つは本件の背景には助産師偏在等を原因とする産科個人病院及び産科診療所における助産師不足があり、本件は周産期医療における構造的な問題の一端であって、事態の改善に向けて施策が推進されている分野において、被疑者らを処罰することが相当であるとは考えられないこと、その他、具体的な危険がないとか、あるいはそのうち是正措置(?)がとられているとか、あるいは退職されているとかいったような理由をあげてこれらの諸般の事情を考慮して起訴を猶予したものであるという旨の発表をしたものと承知いたしております。

持って回った答弁ですが、違法として送検したものの、違法状態を解消するための助産師が全く足りていない「構造的な問題」があり、起訴でもしようものなら日本の産科が灰燼に帰してしまう事があまりにも明白であると言う事です。でもってどれぐらい足りないかも予算委員会質疑に出ています。(勤務医 開業つれづれ日誌より) 

厚生省の、大甘な、大甘な見通しに基づいても、平成22年で1000名不足をするんですよ。それどころかですね、現場の実態は厚生省の把握するどころじゃありませんよ。日本産婦人科医会が実態調査をすると、例えば診療所1343箇所のうち、助産師の充足率が0%が250、30%未満が353、70%未満で532、70%以上充足しているのは208しかないんですよ。

これついては柳沢厚労相安倍総理もその事実には反論できず、議場にはひたすら柳沢厚労相の「効率化」「ネットワーク化」が木霊したのは周知の通りです。

この予算委員会質疑が行なわれたのは2/7、出元明美代表が声明を発表したのは2/13。出元明美代表が予算委員会質疑の内容を知ってなおかつこの声明を発表したのであれば、彼女が抗議で主張する

    産婦人科医会は通知撤廃を求めるのではなく、法に基づき医療体制の整備に取り組むべきだ」
この言葉は恐ろしい事を意味します。

彼女の望み通り、産婦人科学会が抗議を額面通りに受け取り、直ちに全国の産科医が助産師の充足数に見合った分娩数に制限したらどうなるか。算数以前の話ですが、全国でお産難民が溢れかえります。本当の意味の難民で日本中どこにっても分娩を受付けてくれる施設などなく、助産師の介助さえ受けられなくなります。掛け値なしの自然に任せた出産で、家族どころか周囲にもまず出産介助経験者などいませんから、どれだけの悲劇が起こるか想像しただけで背筋が寒くなります。

本当にこの抗議を直ちに産婦人科学会が受け入れ、明日からでも学会員全員が足並みをそろえて分娩制限を行なうのが出元明美代表の希望であるなら、それが実現した時の責任も出元明美代表が取ってくれるのでしょうか、日本中の産院の玄関に貼り紙が出そうです。

    陣痛促進剤による被害を考える会の出元明美代表の抗議に従い、法の精神に基づいて今後の分娩は○○に制限させて頂きます。
あれっ?、抗議に従った方がかえって良いかも・・・完璧な遵法闘争だ、それもごく普通の一般市民の強い要望を受けての。