春のドミノ

のじぎく県と揶揄されている当県の医療事情を憂慮しています。当県は瀬戸内海から日本海まで広がり、面積も広大なんですが、ここに日本の医療崩壊の縮図が描かれつつあると語られています。知る範囲の知識で解説してみたいと思います。

当県の医療だけではない脆弱部は北部である但馬地方にあります。ここは面積こそ広いものの、人口は少なく、山地に覆われて交通の便が悪いところです。そのうえ冬には雪が降り積もります。但馬の医療構図を単純に描くと北部は公立豊岡病院が中心となり、南部は公立八鹿病院が中心となる構図です。この二つの病院が拠点病院となり、各地に点在する他の公立病院とネットワークを組んでいるような体制です。

ところが地方僻地からの医師の逃散が真っ先に起こった但馬では、まずサテライトの病院がまともに機能しなくなります。そのため拠点病院に負担がかかるのですが、南の拠点病院である公立八鹿病院が既に機能不全に陥りつつあります。報道で端的に報じられたのは八鹿病院の産科医医療の中止と、但馬の公立病院で分娩を取り扱う病院が豊岡と日高になったことだけですが、内科、外科などのメジャー科も空洞化現象が著しいものがあります。

実質健在なのは北の拠点公立豊岡病院だけですが、ここへの負担が急上昇しているようです。但馬の人口は20万人程度ですが、一点集中となれば重圧は相当なものです。それでもなんとか公立豊岡が健在なので支えていますが、最後の拠点ともいえる公立豊岡さえも危機が迫っていると言う噂があります。もし最後の拠点病院である公立豊岡が実質機能しなくなれば、但馬の医療は崩壊を超えて焼野原になります。

播磨でもっとも危ないとされているのは北播の市民病院群と言われています。西脇、加西、社、小野、三木などになりますが、ここも但馬に負けず劣らず空洞化が著明です。この地域で分娩できる公立病院はもはや西脇のみ、小児科も西脇と小野だけになっています。メジャー科の空洞化現象も静かに進行し、最後の牙城として期待されていた西脇からも医師が次々と逃散しています。まだ見た目は立派かもしれませんが、実質は相当シロアリに食い尽くされた状態で、後何か起これば一遍に崩れ落ちる寸前といったところです。

西播は姫路はまだ健在のようです。姫路は健在のようですが、姫路を取り巻く地方にも但馬や北播ほどではないにしろ、静かに空洞化は忍び寄っているようです。とくに最西部は拠点病院として赤穂が鎮座していますが、赤穂が崩れればその影響力は西播全体に波及するのは必至です。

以上は寄せられたコメントやアングラ情報から組み立てた憶測です。医師である程度この手の情報に詳しい方が見れば、「常識」程度のお話です。憶測は書きましたが、現時点では決定的な崩壊は顕在化していません。ただ内情は相当危ないことだけはまず間違いないとしてよいかと思います。

危なくともなんとか現状維持であれば、危ないだけで崩壊は先送りできます。ところが崩壊を顕在化させる決定打が現れそうな気配です。但馬も北播もそうなんですが、かなりの医師を医局派遣に頼っています。主たる供給源は神戸です。その神戸が抱える派遣医師の数が来春激減する予測が流れています。減るのは病院戦力の中枢戦力である中堅です。

医局の力の衰微は指摘されていますが、医局の力の源泉の一つに派遣できる医師を多く抱えていると言うのがあります。医局所属の医師の減少はそのまま派遣病院の医師の数の減少に直結します。地方僻地病院は実質医局以外からの医師供給ルートがありません。公募したところで誰も寄ってきません。医局に派遣を打ち切られたら医師確保はお手上げと言う事です。

派遣医師の数が減った医局はどういう行動に出るか。派遣医師数が減らせる余裕があるところは減らします。とは言えそんなところは数少なく、どこもギリギリを越えて持ち場を支える状態です。そうなれば無い袖は触れないと更なる派遣医師の強引な削減をせざるを得ません。

強引に減らすと言う方策に集約化という選択を考えられる人もおられるかと思いますが、集約化は非常な困難を伴います。A市民病院とB市民病院があって、これを一つに集約化するというだけで地方政治の最重要課題となり、妥協した首長は政治生命を失います。そんなところに医局が案を出しても小田原評定確実で、永遠にラチが開きません。また強引に派遣医師を総引き上げして集約する事により、妙な怒りを買うのも考えれば莫迦らしい事です。

そうなれば派遣医師が減った医局が行ないそうな人事は、減った分を公平に減らす策です。タダでも不足しているところをさらに減らされれば現場は悲痛です。悲痛ですが医局にしてみれば総引き上げで各自治体に恨みを買うよりマシです。悲痛さの程度なんですが、崩壊寸前のところは文字通り決定打になります。少しだけ余力のあるところは、今度は但馬、北播状態になります。

医師の数が減りすぎて持ち場を支えきれなくなった病院からは医師は逃げます。一つ倒れるとそこの患者は倒れていない病院に圧し掛かります。圧し掛かられても限界を超えた上に戦力減が為されているわけですから、そこもまた支えきれずに押し潰されます。識者が懸念する医療ドミノが現実化します。

医療ドミノが起これば病院の淘汰整理が自然に行われ、厚生労働省が旗を振っている集約化が実現するかですが、各自治体の恨みを買うのを避けた医局にも向こう傷がかなり深くつきます。医療ドミノ現象に巻き込まれた医師の逃散です。逃散も医局に逃げてくれれば集約化にリサイクルできるのですが、医局からも逃げられれば医局戦力がさらに枯渇します。

医局戦力が枯渇すれば地方僻地に集約化のための拠点病院という箱物を作っても勤める医師がいなくなります。拠点病院として再建するからには、十分な戦力を整える必要があるのですが、そこに中途半端な戦力を送り込んだのでは、押し寄せる患者に再び押し潰されます。

事態が大きく動くのは来春です。なぜかといえば、医師の習性として春人事を節目に考えるからです。そこまでは静かに勤務を続けるでしょうが、春が来た時に行なわれる人事異動で何が起こるか注目しています。もちろん当県だけではなく、他の県でも同様の危険は数多くあります。

医療崩壊を願っているわけでは決してありませんし、むしろ崩壊を何とか食い止めたいと念じてはいるのですが、来春の動きに関しては打つ手が提案すら出来ません。杞憂である事を祈るばかりです。