一夜にして不戦敗

昨日は「今こそ戦うべし」と張り切ったのですが、一夜にしてテンションはしぼまざるを得なくなりました。簡単に昨日の「今こそ戦うべし」のポイントを書いておきますと、

  1. 保健師助産師看護師法第3条にある助産行為について、厚生労働省は産婦の出産前の内診を含めると2002年、2004年に通達した。
  2. この時期の看護師による内診は、それまで診察の補助行為として看護師が行なっていた。
  3. 厚生労働省の通達と産科の実情は相当乖離しており、この通達について日本産婦人科医会は繰り返し撤廃を申し込んでいたが、厚生労働省の返事は「No」であった。
  4. 通達と現場の実情が乖離しており、なおかつ協議してもその溝が埋らないのなら、その判定を第3者の司法府に求めて戦うべしだ。
これについてan_accusedさまから二度にわたる丁寧なコメントを頂き、また元検弁護士のつぶやきさまのコメント欄をROMすると、ほとんど抗戦は不能としか考えられなくなってしまいました。それほど司法と行政の壁は途方も無く厚いと言うことです。無念の繰り言を今日は並べます。
  1. 行政機関の通達の重みはどの程度のものか。

      行政機関の通達に司法府は縛られないのは間違いないそうです。ただし行政内部の法解釈の統一を保持するため、ある法解釈についての通達は他の行政機関もこれに従うものだそうです。これは検察、警察も同様であるそうです。もちろん立法府の承認も司法府の正式の判断も受けていないので、通達の元になる法律の解釈に異議があるときは、司法府に公式の判断を求めるのは可能だそうです。言い換えれば、通達に文句があるのなら訴訟で争えと言う事のようです。


  2. 通達違反は法律違反に直結するか。

      今回の事件での容疑は保健師助産師看護師法違反です。この法律には助産行為がどの範囲まで指すかは明示していません。法律では明示していませんが、通達で範囲を示せばこれは立派な法律違反となるそうです。もちろん通達より法律の方が上位に来ますので、訴訟となれば助産行為の範囲が改めて争われる事になりますが、通達違反を法律違反と見なし嫌疑をかけ捜査を行う事自体は、検察、警察にとって正当な行為となるそうです。


  3. 通達に異議があるとき、これを司法府に訴えれる資格とはどんなものか。

      この資格があるのは通達により具体的な被害を蒙った人間に限られるそうです。通達により一夜にして違法状態に置かれ、被害を蒙りそうだと言うだけでは資格は無いそうです。看護師内診問題で言うと、実際に看護師に内診をさせ、これが発覚して警察の操作を受け、法律違反に問われた人間にのみ資格があると言う事です。他の産院で、看護師に内診をさせ、もし捜査を受けると法律違反に問われそうだと言うだけでは、司法府に通達の違法性を問う資格すらないとの事です。


  4. 訴訟を行なうリスクは。

      とてつもなく高いようです。行政府は一旦出した通達を変更することを非常に忌み嫌うそうです。たとえ訴訟となってもバックは国ですから、個人レベルから見れば無尽蔵の豊富な資金をバックに徹底抗戦するのは確実です。また検察も「被疑者が事実関係や法律解釈を争えば争うほど、検察は強硬になり、起訴猶予ですむものが起訴に、略式で済むものが公判請求に、罰金で済むものが懲役刑求刑になっていきがちです」となるとan_accusedさまもコメントしていただいています。つまり日本最強の被告を相手に回して、勝ち目の薄い勝負を身の破滅と引き換えにして戦う必要があると言う事です。
今回の看護師内診問題で司法府に疑義を訴える資格のあるのは、捜査を受けた堀病院関係者のみであり、もし徹底抗戦をすれば身の破滅を招く事は確実だと言う事です。訴訟を行なえば相手は国ですから最終審まで長期間の時間がかかるのは必至で、なおかつ監督官庁の不興を買っていますから、あらゆる合法的手段で原告である堀病院を締め上げるのもまた必然です。

これは不戦敗にせざるを得ませんね。どこをどう突付いても徹底抗戦できるだけの戦力がありません。それにしてもまるで出来の悪い法廷推理劇を見るようで、かえって法律論を知らなかった方が幸せだったような気がします。

最近なぜか警察は産婦人科叩きに異常に熱心です。この看護師内診問題で最強のアイテムを手に入れたといっても良いかと考えます。産婦人科関係者の話では、助産師が充実し看護師がまったく内診にタッチしていない産院は少数派だそうです。その気になれば全国3000の分娩施設のうち、2000ぐらいはいつでも強制捜査で検挙できる強力なアイテムです。とりあえず横浜の産科医療はこれで灰燼するでしょうし、横浜が灰燼すれば首都東京とは言え、これをすべて支えきれるかどうかは分かりません。東京でもこの惨劇が起これば日本の産科医療は瞬時に壊滅します。

悔しい不戦敗ですが、「お上には逆らえない」事を改めて思い知らされたような気がします。今回の事件でさえ、争う術すら無いのであれば、後は逃散するしか無いという結論になるんでしょうね。