天使と女神シリーズ外伝2 アングマール戦記

アングマール戦記:魔王誕生(3)

何日か後に気を落ち着かせてユッキーと話してんだけど、 「コトリ、魔王にはわからないところがあるわ」 「わかってるところの方が少ないやんか」 「そりゃ、そうなんだけど、コトリが見た魔王は強大だったじゃない」 「うん、ありゃ強大やわ。コトリとユッ…

アングマール戦記:魔王誕生(2)

エレギオンに到着したラーラと三人の侍女の姿を見て、記憶が始まってからあれほど驚いたことはなかったの。生きてはいた、犯されてもいた、それより何より同じ人には見えなかった。どうみても老婆だったのよ。それも干からびきった老婆。人も百歳ぐらいまで…

アングマール戦記:魔王誕生(1)

主女神の娘のラーラは領内巡視に出かける前に挨拶に来たけど、そりゃ、嬉しそうだった。その点はまだ子どもだと思ったわ。とりあえず五日の予定やってん。その三日目に事件は起こったの。 「ラーラ様がさらわれました」 全身の血の気が退いていくのがわかっ…

アングマール戦記:主女神の娘(2)

エレギオンの政治は女神による神政政治で、首座の女神のユッキーと、次座の女神のコトリの二人が実質的に取り仕切っていた。三座の女神は貼り付けの社会福祉担当やったし、四座の女神は貼り付けの教育担当みたいなものだったし。 でも形式上は首座の女神の上…

アングマール戦記:主女神の娘(1)

さてエレギオンでは人さらいは大罪やってん。これはコトリが絶対に許すわけにはいかへん罪やねん。そやから人さらいは捕まれば即極刑にしてた。ユッキーは『段階に応じて』って言ってたけど、これだけは譲らんかった。それにもし人さらい事件が起これば、総…

アングマール戦記:休戦状態(2)

「コトリ、怪しいと思わない」 「そうね、まずセリム一世は、セリム二世と変わらんぐらい英雄やったで良い気がする」 「でしょう、それでもってセリム二世は間違いなく武神」 「さらに新王も平穏に即位している」 「そうなると」 「ま、まさか」 「そう考え…

アングマール戦記:休戦状態(1)

アングマール王が神であることはユッキーもビックリしてた。 「それじゃあ、女神の戦術は通用しないわね」 実際そうやった。エレギオン軍の最大の秘密兵器である女神の戦術が封じられただけではなく、アングマール王の心理攻撃に防戦一方になったことを話す…

アングマール戦記:軍事強化

やらねばならないことはヤマのようにあった。焦眉の問題は軍団の再建。テベスとゲラスの敗戦で精鋭部隊も士官も殆どやられちゃったからスッカラカン。マシュダ将軍がマウサルムに頑張ってくれてるけど、あれだって寄せ集めもイイところ。ユッキーと相談した…

アングマール戦記:エレギオン帰国

心身ともにズタボロ状態のコトリはエレギオンに帰国したら寝付いてしまったの。食事も喉を通らなかったし、頭の中にはゲラスでの惨敗の記憶がグルグルまわるだけだったわ。どうして生き残ってしまったんだろう、どうしてあそこで死ななかったのかって、それ…

アングマール戦記:コトリ敗走

イッサ上席士官の声で我に返ったの。 「次座の女神様。戦況は少々不利なようでございます。敵軍との距離を少し取った方が良いかと存じます」 イッサは微塵の動揺を見せずに言うのよね。リュースも涼しい顔で、 「次座の女神様が自ら剣を揮うほどの相手ではご…

アングマール戦記:会戦(3)

ここまではコトリの読み通りにだいたい展開したんやけど、後から考えれば騎馬戦で優位に展開したのを除いてアングマールの作戦通りやったかもしれへん。アングマールは第一列の後ろに並んでいた散兵部隊を一挙に両翼に押し出してきたの。それも散開突撃みた…

アングマール戦記:会戦(2)

会戦場に望むとアングマールの戦列が見えた。たしかにファランクスじゃないわ。重装歩兵戦列が間隔を取って横三列ってところ。一列の縦深はリュースやイッサの情報通りに五列として良さそう。ただ前方に展開するはずの散兵部隊がいないのよ。戦術を変えたの…

アングマール戦記:会戦(1)

会戦前夜は結局一睡も出来へんかった。リュースとイッサが調べてくれたアングマールの戦術がどんなものかを頭にグルグル回ってたの。どんなものか想像はしきれないけど、真正面から四つに組んだらファランクスが有利だと思う。だって相手は剣だっていうじゃ…

アングマール戦記:決戦前夜(2)

「次座の女神様、宜しいですか」 「いいわよ」 入って来たのはリュース次席士官。実はコトリの男。さらにもう一人いて、これも次席士官のイッサ。こっちはユッキーの男。マウサルムでの軍の再編成には大車輪で働いてくれた。 「夜分に恐れ入ります。アングマ…

アングマール戦記:決戦前夜(1)

毎度毎度ゲラスになるけど、軍団同士で決戦をするのなら平坦地がエエのよね。ファランクスは密集体型で前方に物凄い突破力を発揮するけど、ファランクス陣形を組めないところでは戦いにくいの。それとコトリも戦ったばかりだから、地形も良く知ってるし。 そ…

アングマール戦記:アングマール軍の侵入(2)

マウサルムに入って投降兵の再編に取りかかってんやけど、スムーズにはいかへんかった。マウサルムは高原最大の都市やけど、再編のための装備が山積みされる訳やないからね。それにリメラの乱の時に微妙な動きをした都市への対策もやらなあかんのよ。これも…

アングマール戦記:アングマール軍の侵入(1)

アングマール軍がズダン要塞を突破した報せにはコトリも茫然としてしもた。リメラの野郎、ズダン要塞の守備隊までゴッソリ引き抜いてハムノン平原に出て来たに違いあらへん。ホンマなんちゅうことしてくれるんや。コトリが処刑してやりたいけど、ユッキーが…

アングマール戦記:リメラの乱(2)

リメラはズダン要塞戦で人気が出てから増援軍の要請を盛んに行ってきたんだ。名目はアングマールの拠点奪取のためだったから、メスヘデ将軍に増援軍を編成させて送ったんだよね。そうしたら事件が起こったの。リメラはズダン要塞に到着したメスヘデ将軍を暗…

アングマール戦記:リメラの乱(1)

アングマール戦が始まってからもう七十年になるんだけど、断続的な戦争状態が続いたんでエレギオン軍制も変わってきたんよ。もともとエレギオンの軍制で将軍とは臨時に任命される者だったのだけど、アングマールの情勢が不穏なもので常設になったの。現在の…

アングマール戦記:馬の女神

ユッキーから相談があるって、 「・・・ユッキー、馬に乗るって戦車のこと?」 「あれは馬が引っ張る車に乗るものだけど、そうじゃなくて直接馬の背にまたがるの」 「馬にまたがったところで、人が乗ればそんなに走らへんやん」 「う~ん、報告では馬も大きいみ…

アングマール戦記:セカ凱旋

クラナリスの敗戦はアングマールにとって痛手過ぎたようだった。以後は完全に守勢に回り、ウノス、モスランと包囲戦を重ねることになった。アングマールも頑強に抵抗したがセカは十分な兵站戦を存分に活かし、長期包囲戦を敷いた。二年にわたる包囲戦の末、…

アングマール戦記:クラナリス攻防戦

セカは援軍が到着する前にクラナリスに進んだ。クラナリスはハムノン平原の入口に当たる都市、クラナリスより北側は山岳部になる。アングマールはゲラスの戦いの後にカレムまで退いている。アングマールもそれなりの損害はあったようで、クラナリス攻略はさ…

アングマール戦記:ゲラスの戦い(2)

「急使!」 エレギオンにゲラスの戦いの結果の第一報が入ったのは明け方近かった。ちょうど朝の祭祀の時間やったけど、中止になり報告を聞いたわ。内容は、 「セカ将軍はゲラスの野にてアングマール軍と戦い、これを撃退せり」 まず負けなかった点でホッとし…

アングマール戦記:ゲラスの戦い(1)

モスランへの援軍派遣はやっぱり遅れた。エレギオンも平和ボケで『戦争ってなんのお祭り』状態だったし、他の都市も似たようなものだったのよ。それこそ武器庫から装備を引っ張り出して、埃を落とすレベルから始まったものね。だからエレギオン同盟軍がマウ…

アングマール戦記:エレギオン軍(2)

ユッキーが将軍に選んだセカも士官貴族。女神に選ばれても良いぐらいの男として良いと思う。選ばれへんかったんは、ちょうど、どの女神にも既に男がいただけの理由。主女神入れても五人しかおらへんからタイミングの問題ってところ。そういうことで資質は優…

アングマール戦記:エレギオン軍(1)

コトリにしたらとにかくエレギオン軍は弱いから不安がいっぱいやった。エレギオン軍も都市防衛ならかなり頑張れるんだけど、とにかく野外会戦には弱いの。これはハムノン高原制圧戦で思い知らされた。それに高原制圧戦時代はまだ戦を知っているものが多かっ…

アングマール戦記:北からの侵入者(2)

「首座の女神様、モスランが囲まれました。至急援軍をお願いします」 モスランはクル・ガル山脈の麓に位置する山岳地帯にある都市国家。エレギオンからは一番遠く、ズダン峠から一番近い都市。 「相手は」 「アングマール」 アングマールはクル・ガル山脈の…

アングマール戦記:北からの侵入者(1)

女神は祭祀も仕事でこれがいっぱいあったの。とりあえず朝は日の出の祈りが二時間ぐらいあって、日の入りの祈りがまた二時間。十日に一回は昼間に三時間ぐらいかかる十日祭、月に一回の半日以上かかる月例祭。元がアラッタの女官やけど、その時以上にユッキ…

アングマール戦記:北の暗雲(2)

余談やけど、この好景気の時に世界で初めての居酒屋が出来た気がしてる。この時代の酒と言えばひたすらビールやねんけど、とにかく需要が多かったから、まず酒屋がいっぱい出来て、醸造所も増えた。最初は酒屋でビールを買って帰って飲んでたんやけど、酒屋…

アングマール戦記:北の暗雲(1)

ハムノン高原の北側にはクル・ガル山脈が続いていた。どれも険しい山々で、ハムノン高原に至る道は一本だけ、ズダン峠を越えるしかなかったの。ズダン峠の北側はハムノン高原制圧戦を行った頃はまだまだ未開で、狩猟民族がチラチラいる程度だった、まあ、こ…