ツーリング日和24(第29話)近畿四府県制覇

 やれなかった事でコータローとの関係が少し気まずくなってるのはある。最悪の場合、これで終わりになってしまう予感さえあったのよ。言い様によってはコータローの面子を潰したようなものだもの。

 だからコータローから次のツーリングのお誘いがあったのは素直に嬉しかった。まだ千草との関係を続けてくれるって意思表示だ。もちろんOKしたけど、どこ行くの。

「モンキーでの日帰りってどうしても限界があるやんか」

 だから香川にお泊りツーリングに出かけたのだけど、またお泊りにするの?

「そうそう行けるか!」

 たしかに。行けばやるかやらないか問題に直面するから、少し間を置きたいな。あれこれ悩んだけど、次にいきなりはちょっとだ。次は求められたらの覚悟こそあるけど、それはそれで心の準備が必要だ。そうなると日帰りになるけど、

「千草とは京都府に行ったやんか」

 京都府って言い方が変な気がするけど、福知山まで行ったからあそこは京都府だ。

「大原宿も行ったやろ」

 大原宿も遠かった。だってだよ、まず佐用に行くのだけど、佐用って兵庫県の西の端みたいなところじゃない。そこから因幡街道を北上するのだけど、佐用の北隣が平福で、さらに北隣が大原宿になる。

 平福から大原宿まではそんなにないけど、コータローが平福まで来てるからどうしてもって言ったんだ。千草は帰りもあるから平福でも十分って言ったのだけど、ここまで来てるからって頑張ったんだよね。大原宿も行っただけの価値はあったぐらいに思ったけど、

「あそこは岡山県なんよ」

 そ、そうだった。走ってる時に岡山県って出て来てビックリしたもの。だってさ、佐用から北上する道って因幡街道って言うじゃない。因幡って因幡の白兎の因幡だから、鳥取県に行く道でしょ。だからあの道で行けるのは鳥取県だけって思ってたもの。

「因幡街道は鳥取市に繋がってるけど、途中で岡山県を挟むんよ」

 帰ってナビを確認したらそうなってた。なんか岡山県って西隣って感覚だったけど、ちょとだけ出っ張ってた。でももうちょっと北に行けば鳥取県・・・

「あれ以上は行けるか!」

 それはそうだ。神戸に着いた頃にはヘバってた。

「鳥取は戸倉峠の時に行ったやんか」

 あれも遠いなんてものじゃなかった。山崎からひたすら北上するのだけどラスボスが戸倉峠だもの。思ってたより走りやすかったけど、新戸倉トンネルを越えた瞬間に鳥取県だものね。

「若桜の道の駅でオートバイ神社にお参りもしたな」

 あった、あった。あれもコータローがあれはなんだと気になって見に行ったんだけど、国道二十九号に因んでか二十九番目のオートバイ神社ってなってたけど、あんなのが他に二十八か所もホントにあるの。

「あるらしいわ。兵庫県やったら淡路にもあって十二号らしいで。これもちなみにやが一号からやのうて零号から始まってるわ」

 そのうちどこかのモトブロガーが全国のオートバイ神社巡りをやらかしそうだ。どうやら企画ものみたいだけど、

「妙に定着したらライダーの巡礼者が出て来るかもな」

 もっとも全国に広く点在してるみたいだから、あれを全部回るのは無理が多すぎる。そうなると、

「そやな西国三十三か所とか、四国八十八か所みたいに集約されるんちゃうか」

 ああそれありそう。オートバイ神社の巡礼問題はともかく、既に京都府、岡山県、鳥取県に行ってるから、

「海を挟んだ香川も行ったとこや」

 そうだった、まだモンキーが轍を刻んでいないのは。

「徳島県と大阪府や」

 徳島県って思ったけど大鳴門橋の先が徳島県だものね。

「徳島県はモンキーで日帰りは不可能や。とにかく大鳴門橋を渡れんからな」

 コータローが行きたいところがわかったぞ。それは大阪府だ。大阪府だって電車なら簡単なんだよ。新快速なら二十分だもの。

「クルマや中型バイク以上やったら阪神高速ですぐや」

 渋滞がなければね。だけどモンキーで行くとなると話がまったく変わってくる。神戸からだって芦屋、西宮、尼崎の市街を走り抜け、

「神崎川を越えたら大阪府や」

 あのね、あんなところをツーリングしようって言うつもり。ツーリングの仇敵は市街地走行なのに、それだけしか無いツーリングじゃない。

「オレかってやりたないし、やるつもりもあらへんわ。そやけどな、行くのは大阪市やのうて大阪府やねん」

 わかったぞ、福知山とか、大原宿方式だ。目指してるのは大阪府であればどこでも良いと考えれば仇敵の市街地走行を回避できるかもだ。とは言うものの大阪府のどこを狙ってるんだろ。大阪の北部と言えば箕面ぐらいが思い浮かぶけど、

「箕面の滝で紅葉の天ぷらを食べたいんか」

 あれはパスだ。名物として有名だし、千草も食べたことはあるけど、あれは食べたことがあるのが重要で、あの味に魅かれてリピーターがいるかと言われたら疑問だ。それにだぞ箕面には猿だっているじゃないか。

 猿だってクルマに乗っていて出くわすのなら鬱陶しいだけだけど、バイクに乗ってて襲われたりしたら悲劇だ。

「そうは襲って来んはずやけど、道路に普通に屯してることもあるもんな」

 というかさ、箕面なんてどうやってバイクで神戸から行くんだよ。

「そやから箕面はパスや」

 どうやって大阪府に入るかの問題はコータローに丸投げするとしてだ。

「ちいとは考えろよな」

 そんなものは男であるコータローの仕事に決まってるだろうが。男はね、レディをエスコートするために存在してるのよ。

「いつから決まてるんよ」

 そんなもの神代の時代からだ。異論は許さん。でもコータローのプランは面白そうだ。徳島県はともかく兵庫県から地続きの府県は四つだ。そのうち京都府、岡山県、鳥取県には端っこであってもモンキーの轍を刻んでるのよね。

 バイク乗りでも千草のようなモンキーとかの小型バイクじゃなかったら、一番手軽そうな大阪府がまだなのは、ちょっと悔しい気がする。こんなものたいした自慢にならないけど近隣四府県制覇はしておいても良いと思う。

「ほな話は決まりやな」

ツーリング日和24(第28話)悩む女

 帰ってから、あれで良かったのか悩んじゃったのよね。あの階段地獄の後の筋肉痛でやらずに済んだのは良かったとは思う。あれって足に力が入るじゃない。なんていうか、寝転んでるけど踏ん張るって状態。

 誰だってそうなるとは思うけど、あの筋肉痛状態で変に踏ん張ったら絶対に足が攣ってたよ。それも足が攣りそうなのは、どう考えたって入ってからだ。足なんて攣っちゃうと我慢なんて出来ないから、あれだって中断どころか中止にせざるを得ないじゃない。

 そこまでの状態になってるのに突然の中止は良くないよ。女だってそうだけど、男ならそこまでになっていたらフィニッシュするしか考えてないはずじゃない。そこでお預けされたら絶対に辛いはず。

 だからやらなくて良かったとは思ってるけど、どう考えたってコータローはやりたかったはず。やりたかったからあそこまでのシチュエーションを整えたはずだもの。それぐらいは千草だってわかるよ。

 もちろんあのシチュエーションであっても女は断れるよ。やるやらないは本人同士の同意は絶対だし、それを破ればなんたら罪って法律も出来てるもの。けどさ、やるやらないは契約書とか同意書にサインして決めるものじゃないのよね。

 あくまでも阿吽の呼吸で決めるものだ。その点ではコータローはきっちり過ぎるぐらい手順を踏んでたと思う。再会してかつての友情を確認し、ツーリングを重ねることで二人の距離を詰めてたもの。

 日帰りツーリングの限界がわかって来たから、ステップとしてお泊りにツーリングに進むのはバイク乗りなら自然だ。二人のツーリングはその段階が必要になってたし、千草だってそこまで進みたいからマスツー相手を求めてたのはどこかにある。

 だからコータローがお泊りツーリングの提案をしてきたのは唐突でも不自然でもないのよ。もっとも、これはバイク乗りがツーリングをもっと楽しみたいからの観点だけどね。だって新たな道を走るには行動半径を広げるしかないもの。

 問題はアラフォーが忍び寄ってるとは言え、独身の女と男の組み合わせだったことになる。ツーリングと考えると別物と思いそうだけど、ただのお泊りツーリングとは意味が全然違うのよね。

 たとえばだよ、これがバイクじゃなくてクルマならわかるでしょ。男がドライブで女を旅行に誘ったら目的は一つしかないじゃない。これを男と行くただの旅行としか考えない女なんてこの世にいるものか。

 だから男からのお泊りツーリングを受けるか受けないかは、イコールでやるかやらないかの返事を求められてるのと同じだってこと。あれへの拒否権を発動するのならそこになるのよ。ここだって断ってからと言って二人の友だち関係が終わるとは限らない。

 この点は微妙と言うかケースバイケースが多すぎるのだけど、そうだなお泊りツーリングのお断りは恋人関係になる事へのNOであって、友だち関係は続けるとの意思表示ぐらい。それで二人の関係が終わってしまう事もあるのが女と男かな。

 でもさ、千草は受けてしまってるのよね。千草がイエスの回答をしたとコータローが受け取ったから、あそこまでの準備を整えてくれたってこと。千草だってお泊りツーリングを了承した時に求められたら受け入れる覚悟ぐらいしたもの。

 もっともだけどコータローだって手抜かりはあったと思うよ。まず出来なかった直接の原因である金毘羅羅参りだ。あの階段地獄がなければやってたはずだもの。ここは言い出すと千草にも責任はある。だって千草も香川に行くのなら金毘羅羅参りをしたいって言ったものね。

 それより問題は、コータローは手順こそしっかり踏んでるけど、一つ重大なステップをジャンプしてるのはある。やるにはやるだけの関係を作る必要があるってことだ。そんなに難しい話じゃない、やるまでに告白して恋人状態になっておくことだ。

 ここについてはあえてコータローはジャンプした気がする。なぜかって? そんなもの照れくさ過ぎるんだよ。あまりにも関係が長すぎて、今さら感がテンコモリだ。その辺の呼吸は千草もわかる気がする。

 だから告白から結ばれるまでを一挙に進もうとしたはず。だからその点については千草もそんなに不満はなかったし、そういう手順であるのも納得してたかな。コータローだって、そのためにゴージャスな琴平の宿を用意したはずなんだ。


 千草とコータローの組み合わせは類型的には幼馴染カップルであり、同級生が同窓会で再会して火が着いたカップルだと思うんだよ。そういう出会いで出来上がるカップルはいくらでもいるはずだ。

 だから出会いもカップルになるのも不自然でもなんでもないのだけど、今の千草は同級生より幼馴染カップルの比重が重いかな。そりゃ、あれだけツーリングで昔話をしたら思い出すじゃない。

 思い出すと言っても三歳とか四歳時代だから断片的も良いところなんだけど、とにかくよく遊んでいた。他にも近所の子どもがいたはずだけど、覚えているのはコータローと遊んだ記憶ばかりだもの。

 あの頃のコータローの印象だけどさすがに幼恋の対象じゃなかったよ。というかそれ以前に異性であるとの意識すらなかったもの。でもさ、記憶は美化されるって言うけど、とにかく楽しかったのは覚えてる。

 その辺は千草の両親が冷戦状態で家の空気が悪すぎたのもあったとは思うけど、どこかでコータローの家の子になれたらなんて思ってた記憶があるぐらい。だからじゃないけど、コータローの家にお泊りした事だってあるもの。

 お昼ご飯どころか、晩御飯だって何回も食べたぐらいだ。お風呂だって一緒に入った事だってある。だから一日遊んで家に帰る時だって、

「明日も遊ぼ♪」

 こうやって別れを惜しんだものね。あの頃は永遠にこんな日が続くって信じてたかな。あれって、コータローが引っ越さないか、地元に戻って来た時にせめて同じ小学校の校区だったら幼恋に発展してた気がするぐらい。

 幼馴染から幼恋に進むって、お互いが異性であることを意識してからって言うじゃない。そうなりそうな下地があの頃にあったはずだ。そうならなかったのはお互いが異性であると意識する前に離れ離れになってしまったからのはずだよ。

 だから異性であると意識して再び出会うのが中三まで飛ぶのよね。そこまで飛ぶと幼恋を意識する年代は飛び越えてしまって、思春期の青い恋の時代の真っ只中だ。クラス替えでコータローがいるのはすぐに意識したけど、だからと言って四歳からの続きなんて出来るものか。

 まだ中学生とは言えコータローは男だし、千草だって女だ。とくに千草は意識してしまった気がする。それより何より千草にはコンプレックスがあった。そんなもの毎日鏡を見てるから嫌でもあった。どこをどう見たってブサイクだし、スタイルだって良くない。

 コータローだってあの頃はマメタンだったけど、ブサイク同士だからってそこに恋愛感情が芽生えるなんてあるものか。ブサイクな女だってイケメンに憧れるし、ブサイクな男だって綺麗な子、可愛い子に恋するもの。それがこの世の、とくに青い時代の恋の鉄則だ。同窓会で再会してからコータローに聞かれたよ。あの頃に千草が誰を好きだったかって。

『へぇ、中林やったんか。なるほど』

 中林君はサッカー部のキャプテン。リーダーシップもあったし、

『やんちゃやったぞ』

 そうだった。やんちゃと言ってもヤンキーとか不良じゃなくて、クラスの仲間を集めて強めの悪ふざけをするぐらい。強いて言えば不良っぽい空気ぐらいあったけど、あの頃の女子って、

『ああいうタイプはモテたわな。そう言えば中林は県工やったよな・・・』

 県工は当時のサッカーの強豪校の一つだった。もっとも全国に行くとなると私立の強豪校がいたから遠かったけど、

『大学もセレクションやったらしいな』

 そのはずだよ。言ったら悪いけど県工からじゃあんな大学なんて無理だもの。とはいえセレクションと言っても、

『オレもだいぶ後に知ったようなもんやけど』

 大学の運動部となると高校とはまったく違うのよね。高校までは原則として希望すれば誰でもどの部活にでも入れるけど、大学となるとスポーツエリートしか入れなくなり、それを選ぶのがセレクションになる。

『セレクションもランクがあるねんてな』

 モロみたいで有名強豪大学に入部するには全国大会に出場するぐらいが求められるとかなんとか。中林君も関東の大学には入ったけど、

『二部リーグの二軍やったって聞いてるわ』

 サッカーの場合は国内の頂点がJリーグになるけど、大学の二部の二軍じゃ無理よね。

『サッカーは野球なんかと比べたらプロの裾野は広いみたいやけど、どこでもそうやが下に行くほど給料は激安や。そこまで頑張らんでも、エエとこ就職してるやないか。体育会系の就職はエエってホンマやな』

 体育会系のOBの結束はそれはそれは強いらしいし、企業も体育会系の体力と根性を学力以上に評価するとかなんとか。中林君とは同窓会でも会えたし、昔の面影こそあったけど、

『相変わらずおもろいやっちゃ』

 そうなんだけど、あの頃の輝きを知ってるとちょっとだけ辛かったかな。中林君のことはともかく、コータローはマメタンからイケメンに変身し、医者になってるだけでも凄いのに人気イラストレーター水鳥透でもあるんだよ。

 だから同窓会の日からずるずると交友関係を続けてるのだけど、どうにもこうにもコータローのイメージが四歳時代とダブっちゃうんだよ。そこから立派に成長してるのはそうだけど、どこか意識が異性なんて意識も無かった四歳時代の友だち感覚なんだ。

 だから友情レベルは復活した。だけど愛情レベルにするには違和感がどこかにある。これって千草だけなのかな。他の幼馴染カップルってどうなんだろ。立派に成長した男についに抱かれて嬉しいになるのだろうか。

 なる女はなるんだろうな。だってさ、幼馴染カップルの関係が友情から愛情に変わる時って、相手が女であるとか男であるのを意識した時から始まるって言うものね。それを言えば千草だってそうなるのだけど、なんか違う気がするんだよ。

 もしかしたら幼馴染ラブというより同級生ラブからなのかもしれないな。男と女は対等であるのが当然の大原則じゃない。千草は別にフェミじゃないけど、同級生ならとくに対等の意識は普通にあるもの。

 同窓会だってそうじゃない。十八年も経ったら、そりゃ、もうって感じで変わってる子は変わってる。容姿もそうだけど、社会的な地位もそうよ。もしあれが同窓会じゃなく、見知らぬ社会人として会っていたら、タメ口なんて絶対に出来ないのだっているもの。

 中林君だってそうだけど、コータローなんてそれ以上だ。だって医者だけでも立派過ぎるのにあの水鳥透だよ。ファンだったら崇めてサインをもらいに行くぐらいの地位と立場じゃない。

 でも同級生だからなんのこだわりもなくタメ口だ。これは同級生として対等の意識が刷り込まてるからのはず。だけど恋愛になるとその対等意識がどこかで邪魔してるように思うのよね。

 恋愛だって男女対等のはずだけど、女ってやっぱり受け身だと思う。だってそうでしょうが、キスだって奪う奪われるって言うし、処女だって捧げるとか言うでしょ。たとえ童貞と処女が初体験をやったって、女が男の童貞を奪ったって言わないじゃない。

 だからじゃないかな。この世のカップルの多くは男が年上なのは。女と男として対等でも、年齢が年上の分だけ女は下の地位にいるって感覚。下ってのもおかしいけど、年上を立てるならどうだ。

 初体験の一回しかないから大きなことを言えないけど、女が初めてをやり遂げるには半端じゃない覚悟がいるのだけはわかる。そりゃ、人によって変わるだろうけど、あんなもの痛くて辛いだけじゃない。

 あれを初体験で感じまくって昇天して、この世の快楽の極致だって溺れ込む女なんていないと思う。そんなのがいるのはエロビデオとか、エロ小説の中だけのはずだ。それでも望まれれば初体験に臨むのが女だけど、あれって男が対等だって意識があるとハードルが上がる気してしまう。

 だってさ、だってさ、あれの時ってすべてを許すって言い方をするし、実際だってそうじゃないの。全部脱がないと始まらないし、始まったら始まったですべてやらさければならいのがあれじゃない。

 同級生じゃなくてもどれだけ恥ずかしいものかは経験したけど、それを対等感覚の同級生相手にやるのよ。想像しただけで頭がクラクラする。高校の同級生同士でカップルにななりやってたのも知ってるけど、どんな思いだったんだろうね。


 でもさ、でもさ、やったら女と男の関係が変わるのも経験したのよね。千草の場合はその直後に黒歴史になったけど、終わった直後の感覚は違ったもの。あれはあれで、また対等と言うか、女と男の新たな関係のステージなったって感じだった。

 コータローと結ばれてもそうなるのだろうか。つうか、それも期待してお泊りツーリングをOKしたのも白状しておく。それを言えばもうコータローとはそこまでの関係になってるはず。それでもやり捨てとか、セフレはやっぱり嫌だな。千草がいくらブサイクでも女のプライドは捨ててないからね。

ツーリング日和24(第27話)讃岐うどん

 旅館に泊まると朝風呂があるのが良いのよね。それが温泉なんて最高だけど、筋肉痛にも最高だ。コータローも医者ならなんとかしろ、

「ああそれか。明後日には治ってるわ」

 そんなもの千草だってわかってるわよ。それから朝食だ。これも旅館の朝の楽しみなんだよ。

「これだけの朝ご飯は家では無理やもんな」

 それそうと今日の予定は?

「高松の三便やから十四時出航や」

 一便が一時で、二便が六時じゃ使いようがないものね。それでも十六時四十分には三宮着になるのか。とりあえず十三時ぐらいにフェリーターミナルに行くことになるけど、それまでは?

「ここからフェリーターミナルまでだいたい一時間半やんか」

 昨日もそれぐらいだったよね。どこかに寄るの?

「琴平からやったら丸亀とか善通寺もあるけんど、まずは高松に戻っとこ」

 それが無難だと思う。だったら栗林公園に行くとか。

「千草は歩きたいんか」

 ぐむむむ、バイクを跨げるかも自信が無いぐらい。でも香川まで来て栗林公園にも行かないのはいくらなんでもじゃない。

「たしかにな。そやったら十時までに栗林公園に着きたいさかい八時に出るで」

 相談もまとまって高松に。来た道を戻るのだけど、国道十一号線沿いに栗林公園はあるのよ。問題は定番のバイクをどこに停めるかだ。クルマの駐車場はセットのようにあるけどバイクっていつも微妙なんだよね。国道十一号なら東門から入るのが近いけど、

「この奥に停めれるらしいわ」

 自転車と共用で屋根まであるじゃないの。さらに料金無料は嬉しいな。入場券を買ってだけど、栗林公園は大きく分けて北庭と南庭で構成されていて、メインは南庭みたいだな。えっ、えっ、それって順路と逆だよ。

「せっかく来たんやから」

 コータローに連れて行かれたのは、これってまさか、

「これやったら歩かんでエエやんか」

 ウソでしょ、池を舟に乗って見て回るなんて。

「お姫様遊びみたいやろ」

 こういうのをいつかやってみたかったのよね。だってさ、昔の庭園って船で回るのがホントだって言うじゃないの。

「ここはどうやろ。舟でも回っとってんやろうけど」

 それにしても立派な庭園だ。まさにお殿様の遊び場だな。舟で見て回っても良さそうだけど岸にある建物から見ても感じが良い気がする。あれってお茶室もあるみたいだぞ。ここまでの庭園は兵庫にはないよね。

「神戸やったら相楽園ぐらいやもんな」

 栗林公園を楽しんだら、

「やっぱりうどんやろ」

 天下のうどん県だものね。なにしろコンビニよりうどん屋の方が多いって言うもの。それで、どこ行くの。

「今日は日曜やから休みのとこも多いんや」

 それは残念だ。栗林公園から連れて行ってくれたのは・・・そこってホカ弁屋じゃないの!

「その隣や」

 ああ、あれか。狭い駐車場が一杯だけど。

「行儀悪いけど道向かいに停めさせてもらお」

 そこはモンキーのメリットかも。少し並んだけど入ると食券方式か。何が美味しいのかな。

「かしわ天らしいで」

 メニュー表で番号を選ぶらしいけど、ぶっかけとざるってどう違うの?

「ぶっかけは麺にツユをかけるやつで、ざるはツユで食べるやっちゃ」

 かけとざるって事だな。かしわ天が美味しいらしいからかしわざるの大にした。だって大になっても百円高いだけじゃない。店内もシンプルと言うかクセあるな。厨房のところのカウンターはわかるけど、

「テーブル席はのうて窓際もカウンターやもんな」

 それぐらい狭いのよね。そうだそうだ、香川のうどん屋って美味しいとされるところはすっごくディープなんだよね。

「らしいな。それこそ製麺所の一角にうどんを提供するコーナーだけあって、ドンブリ、箸、醤油持参で行くそうや」

 ドンブリと箸はまだわかるけど醤油ってどうするの?

「麺にかけて食べるそうや」

 そういうところは薬味も欲しければ持参になるけど、なんか店の畑のネギを自分で取って来る店もあるらしいじゃない。

「あれも繁盛して、今はちゃんとした店らしいで」

 香川のうどん屋もサービス店、セルフ店があるらしいけど、

「セルフ店やったら麺もろうて、デボ使うて自分で茹でるんやて。千草はその手の店は行ったことないんか」

 話には聞いた事あるけどないな。だけど香川では高校の給食でもうどんが出て、デボ使って自分で茹でるところも多いんだって。うどん県民おそるべしだ。

「そやけどディープなところだけが美味いわけやない。これだけ競争が激しいさかい、生き残ってるいうだけで味は保証付きや」

 食べる方だって味にうるさいなんてものじゃないはずだものね。それとだけど、

「天ぷらに力を入れて売り物にしてるところも多いみたいや」

 そんな話をしているうちにかしわざるが出て来たけど、うん、これは美味しいよ。まさに讃岐うどんだ。香川に来てこれを食べなきゃ意味ないと思う。

「千草が喜んでくれて嬉しいわ」

 コータローが蘊蓄を教えてくれたのだけど、

「蕎麦は三たて言うて、挽きたて、打ちたて、茹でたてが美味い言うけど、うどんも打ち立て、茹でたてがやっぱり美味いらしい。そやから、より打ち立てを狙って製麺所で食うのが定着したらしいわ」

 なるほどね。ついでに言うと製麺所で食べるから安いのも人気になったぐらいで良さそうだ。香川のうどん通の世界はディープだよ。讃岐うどんを満喫したら、

「時間が中途半端やからフェリーターミナルに行こか」

 もう十二時を回ってるのか。帰りのフェリーの時刻もなんとかならないかな。

「フェリーの時間が長いからしゃ~ないやん」

 モンキーじゃ、瀬戸大橋も、大鳴門橋も、明石大橋も渡れないからね。それでも思ってたより楽しいお泊りツーリングになった気がする。

「また行こうや」

 素直にうんと言いにくい。フェリー乗り場に行こう。

ツーリング日和24(第26話)ピロートーク

 ピッチリ合わされた布団で枕を並べて寝たけど、

「千草の高校の時の修学旅行でやったんはおったんか?」

 どうだろう。修学旅行の定番の男子の部屋に遊びに行ってたのもいたけど、あのシチュエーションで本番は無理じゃない。

「オレもそんな気がする。あれをキッカケに付き合ったんはおるやろうけど」

 キスぐらいまで精いっぱいだったんじゃないかな。高校生で初体験を済ませたのはそれなりにいたけど、高校生でやるとリスクが高いのよね。

「それわかる。どっちも経験が乏しいもんな」

 良い機会だから聞いてやれ。コータローが末次さんにお熱だったのは知ってるけど、高校卒業とともにフェードアウトしてるじゃない。あの後はどうだったのよ。

「あの頃はお嬢様タイプに熱中しとって・・・」

 あははは、男は初恋の相手の影をいつまでも追うって言うものね。コータローの好みの女ってそうだったんだ。

「そやってんけど、モノホンのお嬢様は懲りた」

 どこかの大きな病院のお嬢様だったらしいけど、大学生なのに門限が六時って冗談でしょ。

「オレかって田舎者やんか。都会のお嬢様は付き合いきれんかった」

 いやいや、いくら都会のお嬢様だって、それじゃ、高校生どころか中学生、下手したら小学生並みだよ。二年間付き合って手を繋いだだけってあり得ないでしょうが。

「そやから懲りたって言うたやろが」

 それってコータローがヘタレなだけだったとか。

「言うな。そやけど、そう言われても何も言えん」

 そのコチコチのお嬢様の次に付き合ったのが、

「ヤリマンビッチみたいな女やった」

 あのね、それって反動が大きすぎるでしょうが。それでもヘタレのコータローはその女で童貞が卒業できたのか。

「ちなみにオレで八人目って言うとったけどな」

 それどころかパパ活もしていたって、あまりにもじゃないの。

「オレと付き合ってからはやらへんかったみたいや」

 当たり前と言いたいけど、これはこれでぶっ飛び過ぎてる彼女だよ。それからも何人か付き合ったみたいだけど、

「おもろい子やったけど、変わった趣味してるって言われたわ」

 その頃のコータローは気の強い女が好きだったのか。それも半端じゃないぐらいの気の強さみたいだけど、まさかコータローはマゾだとか。

「マゾちゃうわい。はっきり物を言える女が好きやっただけや」

 そういう意味か。だけどあまりにも気が強すぎて、すぐに大喧嘩になって長続きしなかったのか。何事も過ぎたるはなんとやらだね。というかさ、もう少し普通と言うか、無難なタイプを選ばなかったの?

「歯応えがないやんか」

 スルメとかビーフジャーキーじゃないんだから。じゃあじゃあ、どうして同窓会の時に千草に声をかけたの。

「同窓会やからやろが」

 それはそうなんだけど。それにしてもじゃないの。

「そんなもん、千草がエエ女になっとったからや」

 それって今の好みがそっちに歪んでるってこと。

「あのな。自分のことをそこまで言うか。まずやけど千草は悪いけど美人やあらへん」

 自覚はある。こればっかりはどうしようも無いもの。

「そやけどな、千草は内面を磨き上げてるやんか」

 内面? 昔と変わってないけど、

「どう言うたら良いかな。あれこれ付き合って、どこを見るべきかやっとこさわかったんかもしれん」

 それはコータローが付き合った女が偏り過ぎだからだろうが、

「まあそうなる。あれはあれで良かったとは思うてるけど、懲りたし、疲れた。なんちゅうか、ああいうタイプは合ってへんとわかったぐらいや」

 寄り道しすぎだろうが。でもさ、千草は折り紙付きのブサイクだよ。

「昔から言うやろ。美人は三日で飽きるけど、ブスは三月で慣れるって」

 そこまで言うか。釜茹でにしてやるぞ。

「あの言葉の本当の意味がわかった気がするねん」

 そういうことか。本当に愛して、長く付き合うためには見た目じゃなく性格だって意味か。いくら美人でも性格が悪かったら三日で嫌になるし、ブサイクだって性格が良ければ、三か月もすれば見た目なんかどうでも良くなるぐらいかな。

「そうやと思うねん。そやから同窓会で千草を発見してん」

 そうは言うけど、千草の性格だって惚れられるほど良くないよ。

「その辺は相性や。それに千草はオレの初恋の相手の条件があるやんか」

 末次さんとは似てないよ、

「見た目やないし、性格でもあらへん。千草はな、社長令嬢やんか」

 ありゃ、そこか。確かに形式はそうだけど、本物のお嬢様教育なんか受けてないよ。

「そやけどどこか上品や」

 眼科に行ってこい。精神科の方が良いかもだ。それでもコータローの気持ちは少しだけわかった。だけどさ、それって気の迷いだよ。そりゃ、恋人にして結婚まで真剣に考えるのなら見た目より性格を重視するのは正解だと思うよ。

 けどさ、人って見た目は大きいのよ。見た目が良くないと相手に魅かれないし、魅かれないとそこに恋なんて生まれないじゃないの。それにさ、美人の性格が悪くて、ブサイクの性格が良いとするのも偏見だ。

「恋愛小説の定番の設定やんか」

 だからあれはあくまでも作り話だって。あれはね、千草のようなブサイクの夢と憧れを投影したものだけだってこと。男だってそうだろうが、

「た、たしかに。性格の悪いブサイクはなんぼでおるし、性格の良いイケメンもおるもんな」

 コータローなら性格の良い美人をゲット出来るはず。コータローだって性格が良い美人とブサイクがいたら美人を選ぶだろうが。それは千草だってそうだよ。下手に千草なんて選んでしまったら後で絶対に後悔するに決まってる・・・こらぁ、勝手に寝るな。人がせっかく良い話をしてるのに。

ツーリング日和24(第25話)琴平花壇

 なんとか転ばずに階段地獄から下りて来られた。平地ってこんなに嬉しいものだと思ったよ。もう足だってパンパンだ。ところで宿は、

「近いで」

 それは助かる。ここから一時間なんて事故しちゃいそう。駐車場から橋を渡って川沿いの道を走って行ったら、

「あそこが駐車場みたいや。嬉しいな、屋根付きのバイク置き場もあるやんか」

 ホントだ。ところで琴平花壇ってなってるけど、元は花屋さんだったの。

「何言うてるねん。明石にも人丸花壇ってあるやんか」

 言われてみればそうだ。

「箱根にも強羅花壇があるで。琴平花壇も江戸時代からあるそうやが、この名前になったんは明治になってからやそうや。ようわからんけど、その頃は花壇って付けるのがなんかオシャレで高級感があったんちゃうか」

 それはあるかも。その手の語感というか言葉からのイメージは変わるものね。間違っても公園の花壇を見ながら思いついたものじゃないはず。旅館には道向かいの階段を上がるのか。また階段ってちょっとウンザリした。

 さてどんな宿かな、ちゃちな宿だったら承知しないぞ・・・て、本当にこの宿なの。間違えたのじゃないの。

「ここでエエはずや。たぶんやが似たような名前の宿はないはずや」

 そ、それはそうだけど、それにしてもじゃないの。フロントでも予約が通ったみたいだから、ここみたい。そこから部屋に案内されたけど、どうして庭に出るかと思ったら、ここって離れじゃないの!

「気に入ってくれたか?」

 気に入るも何も、気でも狂ったの。どこをどう見たって超高級旅館のしかも離れだよ。中に案内されても目が回りそうだ。

「千草と一緒に泊まるなんて、そうそうはあらへんやろ」

 中学の修学旅行以来だ。それにしたって、

「こういうとこ好きやろ」

 好きだよ、いつの日にか泊まってみたいと夢見てたよ。だけど、だけど、いくらなんでも・・・そもそもだけど、いくらするって言うのよ。こんなところの宿泊費なんて千草は払えないよ。

「それは心配せんでもエエ。これぐらい経費で落ちる」

 経費って言うけど、遊びに来てるだけじゃない。そんなものが経費で落とせるものか。

「そうでもないねん。医者やったら落ちんけど、イラストレーターもやってるやんか。そやから取材のための経費や」

 そっちの方の経費か。たしかにイラストレーターなら取材は仕事だし、

「金毘羅様参りも、こういう宿に泊まるのも取材の一環や」

 そんなものなのか。でもさぁ、でもさぁ、コータローは仕事になるかもしれないけど千草は関係ないじゃないの。

「あるに決まっとるやんか。イラストにはモデルが必要や」

 千草がモデル? ああ、なるほど。イラストに描く時は美少女になるから、そこに誰であっても女がいれば良いぐらいか。マネキンだって人形だって良いのだろうけど、生身の人間の方がイメージしやすいぐらいかも。

「まず風呂に行こうや」

 それ賛成。ツーリングってひたすら風を浴びてるようなものだから汚れるし、今日はトドメに金刀比羅神社の階段地獄だった。

「貸切風呂も使えるけど・・・」

 あのね。そしたら混浴になるじゃないの。まだそんな関係じゃないだろうが。ここは温泉なのが嬉しいけど、昔からの温泉じゃなくて二十世紀の終わりごろにボーリングして掘り出したものとか。

 でも筋肉痛に気持ち良いぞ。露天風呂もあるのか。ノンビリ浸かりながら考えてたのだけど、コータローは本気で千草と間違いをやろうとしてる。だってさ、こんだけのシチュエーションを整えられてしまってるんだもの。いくらかかっていると言うんだよ。

 ここも誤解を招きそうだな。援助交際でもパパ活でも売春でもないから、いくらカネを積まれたってやる義理はない。当たり前の話だ。そうじゃなくて、千草はコータローの好意を受け入れてしまってるって事なんだ。

 好意たってピンキリで、それこそ休憩の時のジュースを奢る程度もある。それぐらいなら大したことないけど、コータローは今回のお泊りツーリング代をすべて奢るつもりだ。というか、こんな超が付きそうな高級旅館の宿代なんて払えないよ。

 ここもわかりにくいか。お泊りツーリングを受け入れた時点で、こうなる可能性もあったんだよ。だからその点にあらかじめ釘を刺しとくとか、そもそもお泊りツーリングに行かない選択も千草にはあったってこと。

 でも、のこのこ出かけて来てるし、結果としてコータローの好意を受け取ってしまってる。受け取ったからには代償を払う必要が出て来るのよね。代償が何になるかだけど、女と男がこんな良い宿に二人で泊まったら一つしかない。

 そうなるかもしれないのに、ここまで来てしまったのが今だ。そりゃ、今からでも断れるし、そこを無理やりコータローが襲えば犯罪だ。けどさ、ここまでされたら逃げられるものか。そうなると今夜だからせめてしっかり洗っておくか。

 風呂から上がって部屋に戻ったら夕食だ。うひょぉ、これは御馳走だ。海に近いから瀬戸内海の海の幸は当然として、

「讃岐三畜って言うらしいけど・・・」

 讃岐牛に、オリーブ豚に、讃岐コーチンなのか。これも美味しい。讃岐グルメのオンパレードだよこれ。食べながら逃げ場はどこにもないと覚悟した。これだけの好意を受け取ってしまったものね。けどね、けどね、

「千草も運動不足やで」

 うぅぅぅ。バイクには乗るけど普段はあんまり歩かないからな。あの階段地獄はあまりにもきつかった。本宮に着いた時に完全にヘタレこんじゃったもの。ここまで来てるから奥の院も行きたかったけど、あそこで引き返してくれて助かったと思ったぐらい。

「ひょっとして生理か?」

 夕食中にデリカシーが無さすぎだ。そんなものはちゃんと調整して来てるわい。女を舐めるな。これはやるためじゃないぞ。旅行でガッチャンしたら悲惨だからだ。男には死ぬまでわからんないだろうけどね。

 食事が終わり、片付けとお布団敷く間にガーデンラウンジでもう一杯。でもさぁ、それだけ歩くだけで足が筋肉痛の悲鳴を挙げまくってる。でも部屋に戻るよね。中に入るとぴっちり合わせて布団が敷いてある。そ、そうなるか。この歳のカップルだからそう見るよね。

 次はコータローが求めてくるはず。つうかさ、ここまでになって求められない方が女の恥だろ。そこの覚悟はなんとか出来たけど、この足の状態でやったら辛すぎる。だってさ、やってる最中に足が攣りそうじゃないの。

「ホンマに痛そうやな」

 シャレにならないぐらいだ。これって明日の方がもっと辛いよね。

「明後日の方が辛かったらオバハンや」

 うるさいわ。

「明日もあるから寝よか」

 えっ、えっ、えっ、寝るって睡眠の意味なの。

「千草も疲れたやろ。帰りもあるからちゃんと休まんとあかん。オレかってくたびれたし」

 それは有難いけど、コータローはそれで良いの。これをするためにここまで来て、これだけのセットアップをしたのでしょ。

「なんかやりたいんか?」

 いや、あの、そうじゃないけど、そうでしょ。

「アホ言うな。千草は大事な大事な幼馴染や。今夜は寝るで」

 助かったと思う反面。あれだけ覚悟を決めたのがアホみたいじゃないの。でも寝よう。体が悲鳴を上げてるのは間違いないものね。