謎のレポート(第18話)食堂

 今日もいつものように一日を過ごしていたのですが、マリ様はアリサの目をじっと見つめながら、

「あなたの名前は」
「アリサです」

 マリ様は妙な質問をすると思いました。わたしはアリサ、それ以外にあるはずがないじゃありませんか。マリ様はそんなわたしの戸惑いをすべて見抜かれたように、

「熊倉吾郎って知ってる」
「そんな殿方は存じません」

 誰なの、その下品そうな男の名前は。アリサが知っているはずがありません。どんなに記憶をたどっても、見たことも聞いたこともありません。アリサは産まれた時からアリサですし、この館で夢にまで見た真のアリサになるためにマリ様に教えを受け、日夜修行に励ませて頂いているのです。それでもマリ様は、

「もう一度聞くけどあなたの名前は」

 どうもこの質問には大きな意味がありそうなのはわかります。それはマリ様の目がいつも以上に真剣なのです。でも答えは一つしかありませ。名前なんてこの世に一つしか存在するはずがありません。

「わたしの名前はアリサです。生まれた時からずっとアリサであり、これはいかなる罰を頂こうともアリサ以外にあり得ません」

 マリ様はアリサの反応を丹念に確かめられ、ようやく少し表情を緩められ、

「アリサは優秀よ。ここまで来るのが予定よりずっと早いもの」
「あ、ありがとうございます」

 マリ様が褒める事は滅多にありません。褒められるのはアリサが真のアリサに近付けた時のみです。ですからマリ様に褒められると魂が喜びに震えますし、アリサを真のアリサへ近付けるための新たなステージが与えられる事も意味します。

 ですがマリ様は少しお悩みのようでした。これはきっと新たなステージにアリサを本当に進めて良いものかだと思います。そうやってマリ様を悩ませてしまうのは、アリサが至らぬからなのは良く知っています。やがてマリ様は思い切ったように、

「そろそろ次の段階に進めるわ」
「マリ様、ありがとうございます」

 マリ様はご決断してくれました。あれだけマリ様が悩まれるからには、これまで以上に難しいステージに違いありません。でもどんな難しい課題であってもアリサはクリアして見せます。マリ様の期待に応えることが、アリサの生きるすべてで、その先に真のアリサがいます。


 次の日もいつもように過ごしていたのですが、夕食の時間になった時に、

「今日は食堂に行きます」

 初めて教えて頂きましたが、ここに暮らさせて頂いているアリサのような女の食事は、すべて食堂で取るのが本来の決まりになっているようです。

「アリサは食堂で食事を出来るぐらいの段階になったからね」

 そこから食堂での決まりを教えて頂きましたが、まずは決して話をしない事、食堂での食事中は沈黙を守らないといけないです。他にも他の女と視線を合わせるの許されず、顔を見るのもダメとされました。

 これだけ教えられてアリサはマリ様に従って廊下に出ました。今までは廊下に出たら左に曲がって浴室に行くだけでしたが、初めて右に曲がって突き当りの扉に向かうことになったのです。それだけでアリサはドキドキさせられました。これまで決して廊下の右側には、足を踏み入れてもならないとされていましたから。

 やがて扉に到着して開くと、そこは食堂でした。高級感溢れるレストランみたいな感じです。ただレストランと違うのは長いテーブルになっていたことです。アリサはマリ様に無言で示された端の席に着きましたが、マリ様はずっと奥の最上席でした。

 おそらく座る場所はここの女たちの席次を示すはずです。アリサが末席なのは当然ですが、マリ様はあんな上席に座られるのに改めて尊敬しました。次々に女たちが食堂に入って来て席は埋まって行きましたが、全部で十人ぐらいのようです。

 食事は最上席のマリ様が食べ始めるのが合図の様で、アリサも出された料理を順番に食べさせて頂きました。食堂は本当に静かで、完全に沈黙状態なのは決まりの通りですが、ナイフやフォークの音もしないぐらいです。

 それにしても美人ぞろいです。マリ様は当然ですが、他の女も負けず劣らずです。そして典雅に、上品に食べておられる姿は一幅の絵のようで思わず見惚れそうになりました。デザートまで食べ終わると、最上席のマリ様が立ち上がるのが食事終了の合図のようです。


 マリ様がアリサの席まで来られたので一緒に部屋まで戻らせて頂きました。なにか大冒険をしたような気分でアリサは浮き浮きしていましたが、部屋に入ってマリ様の顔を見ると、とっても、とっても厳しい顔をされています。

「アリサ、今日の振る舞いには失望させらたわ」

 そこから反省の時間になりましたが、食堂でのアリサの振る舞いの落第点を次々に並べられました。これほどの落第点を付けられたのは本当に久しぶりです。

「食堂の決まりを守れないのは重いのよ」

 アリサは反省のためにいつもように服をすべて脱ぎ、腕輪と足輪を付けさせて頂いたのですが、

「今日は背中を壁に付けなさい」

 マリ様の目に怒りが浮かんでいる気がします。マリ様はアリサを前から滅多打ちにされました。それはアリサの大事なところを打ちのめし、乳房も容赦ありません。マリ様は前ムチと呼ばれていましたが、今までのムチとは桁外れの痛さです。

 これが食堂の決まりを守れなかった罰だと体で教えて頂きましたが、さすがにこれだけの前ムチを初めて頂いたアリサは息も絶え絶えで、情けないことに、

「ありがとうございました」

 こういうのがやっとでした。マリ様の前ムチの愛情の強さを一晩中、感謝していました。アリサに強いムチを与えて頂けるのは、すべからくマリ様の愛なのです。強ければ、強いほどアリサにとって喜びなのです。たださすがに痛すぎたのは反省材料です。

 次の日の食堂はひたすら下を向いいました。昨日の失敗はアリサが好奇心を抑えきれずにキョロキョロ見てしまったのが大きかったからと考えたからです。でも、

「なんと不格好なこと。見るに堪えませんでした」

 反省の前ムチの嵐を頂いてしまいました。真のアリサはいつでも姿勢よく上品な態度を一瞬たりとも崩してはいけないのは基本中の基本です。表情のだらしなさの指摘は耳を覆うぐらいです。それを忘れていたアリサへの愛のムチだったのです。


 食堂の教育はとにかく厳しいものでした。マリ様は連日のようにアリサに前ムチを揮って頂きました。食堂ではすべてが自然でなければならないと叩き込まれました。少しでも不自然さがあればムチを頂くのです。

 自然さは、フォークやナイフの扱い方、どこから料理に手を付けるか、どういう速度で食べるのかまで決まりになっています。それはこれまでもマリ様との食事で教えられていましたが、食堂ではそれが段違いに高いレベルものが求められるのです。

 もちろん食堂に出入りする時の姿勢、歩く姿、席に着く動作、食べる時の姿勢、さらに表情のすべてに決まりがあり、マリ様の合格点の基準は半端なものではありません。

「すべて教えたはずです」

 こう言われてムチの嵐の毎日。でもアリサはマリ様の望む姿になれる事だけを目標にひたすら頑張りました。そうなることがマリ様の望みであるなら、アリサはそれに応えるのが人生のすべてだからです。

 食堂の前ムチがどれぐらい続いたのかもアリサには既にわからなくなっていました。前ムチの厳しさは痛みも当然ですが、今までのムチと違い一打ごとに、

「ありがとうございました」

 こう叫ばないとならないのが決まりです。もちろん心からの感謝を込めないといけません。もちろんこれまでのムチと同じように痛みを訴えたり、悲鳴をあげる事は許されません。ですがこれまでのムチより痛みは比べ物にならないほど強く、そうしなければの思いとは別になかなか出来ませんでした。

「アリサの気持ちに足りない部分があるからよ」

 そうなのです。ムチの痛みに対しての感謝や喜びがアリサにどれだけ足りていないのかを教えて頂いたのです。今までのムチより、もっともっと強い感謝の心、喜びの強さを持たないといけないと言う事です。

 それでも下から跳ね上げるように、アリサの急所を打たれる時の痛みは前ムチのなかでも格段のものです。それこそ息が止まるほどの痛みになります。単発でも激痛なのですが、時に連発になりその辛さは言葉に出来るようなものではありませんでした。

 アリサに求められたのは、この痛みさえ忘れるほどの強い感謝の心だったのです。感謝の心さえ強くなれば痛みは耐えられるだけではなく、喜びに変わります。これは今までのムチでマリ様に教えて頂き、身に着けることが出来たものです。

 これはどこにムチを頂いても、感謝の心さえ強ければ同じのはずです。そう、それがたとえ女の急所であるからと言って例外などあってはならないのです。ましてや頂いているのはマリ様からの愛のムチです。

 これはアリサにとっても辛い試練でした。これだけの試練ですから、マリ様も食堂に行くのをあれだけ悩まれたのはよくわかりました。でもこれは乗り越えなければならない試練です。これを乗り越えられるとマリ様が期待されているからです、

 食堂の試練の克服は、まさに牛の歩みのように一歩一歩でした。それでも食堂での振る舞いの向上、前ムチへの感謝の心を高めて行けたと思っています。苦しく辛く、長いものでしたが、それよりも達成する喜びの方がはるかに大きかったのです。

 これを乗り越える事が真のアリサに通じる道だからです。いかに辛くとも、アリサが歩む道はこれしかなく、他の道を歩む気など考えも出来ませんでした。真のアリサになれる以上に大事なことはこの世に存在するはずもありません。


 それはアリサへの急所のムチがマリ様の叱咤激励であり、愛を超えた慈愛のムチと心から感じた時に変わりました。今のアリサは食堂に行っても他に誰がいるか、何人いるかなど興味も関心もありません。視線を上げても不要なものは一切視界に入りません。マナーも考えるのではなく、体が自然に動くのに身を委ねるだけです。そしてついに、

「アリサは合格よ」

 涙の止めようがありません。

「すべてマリ様のお蔭です」

 これは心からのものです。これこそを本当の感謝というのだと思います。不出来なアリサが出来るようになるまで、休みなく慈愛のムチを揮って頂いたからこそ今のアリサがいるのです。

「アリサはやっぱり優秀ね。だからこのコースにすると御主人様は決められのが良くわかる」

 御主人様と聞いてアリサは飛び上がりそうになりました。マリ様の上におられるのが御主人様であり、アリサにとってはまさに雲の上の人。この館の決まりをお作りになられ、それによってアリサを成長させて頂いた大恩人なのです。

「アリサは次に進む時が来たよ」
「マリ様、ありがとうございます」

 食堂でアリサはまた進化しました。疑いもなく真のアリサにまた一歩近づきました。それとアリサを喜びに包んだのは、アリサの進んでいる道は御主人様から与えられたものだったからです。その期待にアリサは応えているからです。

 アリサは実感として相当なところまで来ている気がしています。でもまだ真のアリサではありません。ここからもっと大きなステージを通り抜ける必要が絶対にあります。

「アリサの感じてる通りで良いわ。でも、食堂を合格できたアリサなら必ず行ける」

 なんと嬉しい言葉でしょうか。ここまで温かい言葉をマリ様から頂いて次のステージをクリアできないわけがありません。アリサの女の誇りにかけて必ず合格を頂き真のアリサになります。

謎のレポート(第17話)御手洗のマナー

 アリサの日常で話しておかないとならないのは、尾籠なお話になりますが、暮らしていくうえで欠かせない御手洗です。この御手洗もマリ様の教えで欠かせない非常に重要なところになります。

 放屁については忘れられない事があります。始めの頃に躾けのまだまだ不十分なアリサは、こらえきれずに部屋の中でマリ様の前で粗相してしまう失態を起こした事があります。隠しようも、誤魔化しようもなくマリ様に知られてしまいました。

 マリ様は厳しくはありますが、決してアリサを頭ごなしに怒鳴ったりしたことがなかったのですが、見たことも無いぐらいに怒りの表情になられました。即座に服を脱ぐように言われ、マリ様の怒りのムチを数えきれないぐらい頂くことになりました。

 あれは愛のムチではなく、怒りのムチでした。一打一打にマリ様の強い怒りと、悲しみが込められているのが体でわかりました。そう悲しみなのです。こんな事さえ守れないアリサと、きっとそんな事さえ教えられないマリ様自身の悲しみであったはずです。

 ですから排尿、排便、放屁は必ず御手洗で行うことは常識以前ですが、御手洗の決まりでまず基本中の基本になるのは、排尿、排便、放屁を必ず分けて行う事です。

 これもアリサは苦戦させられました。排便中に排尿してしまったり、放屁をしてしまう大失敗を何度も行っています。とくに排便中の放屁は今でも克服しきれていないところがあります。

 マリ様が部屋におられる時は必ず監視の下に御手洗をするのですが、御手洗まで行く手順、下着の脱ぎ方、服のさばき方、便器への腰かけ方、そこから排尿、排便、放屁までに取るべき姿勢、表情の作り方、排尿、排便、放屁に至るタイミングもすべて決められています。

 もちろん排便、排尿、放屁中にどうするかもあり、とくにその量や勢いについてはマリ様の厳しい目が注がれます。もちろん後始末についても、トイレットペーパーの使用量は当然すぎますが、その汚れ方まで定めれています。

 昼間に御手洗に行くときにはマリ様の許可を頂くのですが、許可を頂くタイミングも重要です。まず食事の準備が始まれば、食事中は当然ですが、食後も三十分以内は厳禁です。口にするどころか、そういう素振りをするだけで反省が必要になります。

 マリ様の教えを頂いてる最中も、これを遮ることは間違っても許されません。許可を頂けるチャンスがあるのは、マリ様の教えが一段落ついた時のみです。ですがマリ様は教えが始まると一時間程度は必ず続きますし、これが二時間、三時間も続くことはザラにあります。

 さらに許可を願ってもなかなか許されることはありません。これも最初の頃はそうでもなかったのですが、最近では滅多に許可を頂けなくなっています。さらに許可を願って却下されるのは重大な失態になります。

 これは不要な御手洗の許可を願ったということで、マリ様の貴重な教えの時間を浪費させようとしたと見なされるだけでなく、マリ様の教えをサボろうしたとまで見なされてしまう事になるのです。言うまでもなく厳罰に処せられます。

 それと先ほども申し上げました通り、御手洗に行きたい素振りをすること自体が反省対象になります。具体的にはモジモジしたり、我慢を重ねるあまり正しい表情を保てなくなったりすればマリ様は即座に見抜かれます。

 とはいえ特に尿意が切迫すれば、それは苦しい状態になります。放屁ですらあれほどの厳罰が即座に下されるぐらいですし、失禁はマリ様から言い渡されていますが、たとえ一滴でも許されません。

 御手洗の許可を必ず頂けるのは夕食が終わり、反省の時間の前です。これは御手洗の中でも特別の許可になり、排尿、排便、放屁を順番に指定して頂きながら行います。これが特別の許可なのは量や勢いだけでなく、出なくとも許されるのです。

 特別の御手洗の許可の意味は、マリ様のムチを頂く時に失禁、失便、放屁が許されないためです。言い換えれば特別の許可をもらいながら粗相をすることは、マリ様のムチを穢すことになり、それはそれは厳しい罰を受けます。

 これ以外にアリサに御手洗の許可が頂ける事があります。これはマリ様から与えられるもので、突然と言って良いものです。それこそ教養の教えを頂いてる真っ最中に、

「アリサ、御手洗に行きなさい」

 即座に御手洗に向かうのですが、この時も当然ですが排尿、排便、放屁が指定され、それ以外は許されません。指定通りに出来ない時は、それはそれは厳しい反省が必要になります。


 ここまで御手洗のマナーが厳しいのは、すべてアリサのためです。アリサは御手洗とは、自分が催した時に行くものだと本気で信じ込んでいました。しかしそれが根本的に間違っている事をマリ様に教えて頂いたのです。

 アリサのような考えの御手洗は女に決して許されるものではなかったのです。アリサのような御手洗を行う女はいますが、あれは無知で野蛮で哀れな女なのです。その理由もマリ様に教えて頂きました。

 女には正しい排尿、排便、放屁の仕方がキチンと定められているのです。それを守ってこその女のです。本能のままに催せば御手洗などもってのほかなのです。女であるならば正しい方法を覚えるのが女の美徳のはずが、

「これしきの事さえ身に着けられない女が多すぎる」

 マリ様はこう嘆いておられました。それ以前に女の正しい排尿、排便、放屁の存在さえ知らない女が多すぎるともされておられました。そう言えばアリサがこの館に来た頃にマリ様に許可さえ頂かずに、

「オシッコ」

 こう言って御手洗に駆け込んだことがありましたが、あの時にもマリ様は軽蔑した表情をされていました。あれはアリサが正しい方法を身に着けるどころか、その存在さえ知らないと見下されていたのは良くわかります。

 ですが今のアリサは違います。マリ様に女の正しい排泄法をあるのを教えてもらったかです。マリ様に出会わなければ死ぬまで知らず、無知で野蛮で哀れな女のままであったに違いありません。


 女の正しい排泄法と野蛮な排泄法は根本的な違いがあります。これは誰が排尿、排便、放屁の主体なのかです。実際に排泄するのは女ですが、野蛮な排泄法はこれまでアリサがしてきたように、自分が感じた尿意や便意が主体になります。

 これが正しい排泄法になると、自分以外の誰かに命じられた時になります。アリサは正しい方法の基礎を覚えているところですが、必ず排尿、排便、放屁を分けてするのは、そのうちどれを命じられるかわからないからです。

 アリサの理解もまだまだ不十分なところも多いのですが、マリ様が仰るには排尿、排便、放屁のコントロール術だとされます。これが自在にできるようになれば、なんの不自由もなくなるとされます。

 ここのアリサ的な解釈ですが、おそらくアリサ自身の自発的な尿意や便意を放棄するのだと考えています。でもこれは入り口でしかありません。これでは単なる便秘になっているだけです。

「そうだよアリサ、ちゃんと出さないと体に良くないからね」

 つまりアリサ以外の誰かに尿意や便意を委ね、命令があれば即座に感じるのはもちろんですが、感じないのは許されない事になるぐらいです。

「間違ってる部分が多いよ。いつ命じられるかわからないから、常に準備を怠らないのはもちろんだけど、与えられた機会にしっかり出せるようになるのもポイントだよ」

 だからマリ様はあれだけ量や勢いに厳しい目を注がれているのがわかります。

「アリサならもうわかるはず。御命令を頂いた時に感謝の心が生まれ、排泄するときに喜びが与えられる素晴らしい方法だよ。これが身に着けてこそ正しい女だよ」

 そうなのです。毎日の暮らしに欠かせない排尿、排便、放屁がこんなに素晴らしいものに変えられるのです。

「これは女の基本のすべてに通じるんだよ。つまりは耐える喜び、許される喜び、望みが叶う喜び。これを正しい排泄を身に着ける事によって、毎日繰り返し心の中で高めることができる」

 まだトレーニング中ですが容易に身に着けられるものではありません。ですがアリサは女の正しい排泄法を知ってしまったのです。いや、教えて頂いたのです。これも真のアリサを目指すのですから必ず完璧にマスターしてみえます。いかに困難な技術であろうともアリサにはマリ様がいらっしゃいます。

謎のレポート(第16話)アリサの日常

 アリサの一日は夜が明ける時から始まります。夜明けはアリサが感じて起きなければなりません。目覚まし時計どころか、時計やカレンダーさえないからです。これも出来るようになるまでにマリ様に体で教え込んで頂きました。

 これもマリ様に御許可頂いたものですが、雑巾を部屋に置かせて頂いています。これで心を込めて部屋を磨き上げます。床はフローリングですから、ピカピカに光輝くまで磨き上げます。もちろんドアノブとか窓枠も同様で、曇りひとつ無いようにします。

 もちろんマリ様の厳しいチェックが行われ、マリ様の合格をもらえるまでアリサもしっかり躾けて頂きました。自分で責任をもって磨いたところですから、命じられればどこでも喜んで舐められます。便器? 言うまでもありません。

 アリサの服や寝具ですが、これは毎朝、どこからか自動的に送られてきます。どういう仕組みかはわかりませんが初めはクローゼットと思っていたのがそこで、扉を開ければボックスがあり、汚れ物もそこに入れますし、毎朝清潔な衣料を手にすることが出来ます。

 朝には服とシーツ類が届きますから、ベッドメイクも行います。これも言うまでもなく皴一つあってもなりませんし、敷き方も厳密に決めれています。たたむ時も、もちろんそうで、1ミリたりともずれるのは許されざることです。

 シーツとかは朝に送りますが、服は夜に送ります。これも汚れ物だからと言って乱雑に扱うことは許されません。決まりに従って丁寧にたたみ、ボックスに収容しなければなりません。服はメイド服一式しかありませんし、パジャマなどはありませんから、夜に服をボックスに入れれば裸で過ごすことになります。

 これも言うまでもありませんが、丁寧に扱うのは当然すぎることです。毎日着替え、取り換えはしますが、汚したりも許されませんし、破損などしようものなら、それはそれは厳しい反省が必要になります。


 アリサが掃除を終えた頃にマリ様がいらっしゃいます。そうそうこの時までに掃除はもちろんですが、マリ様が不快にならない程度に髪とかは整えておくのも決まりです。入浴後に改めてセットを行うのであくまでもそれなりですが、そうですね、ほつれ毛が絶対に許されない程度です。

 それからマリ様と一緒に浴室に向かいます。アリサは裸ですが、マリ様はメイド服を着ていらしゃいますから、これを脱衣場で脱がさせて頂くのもアリサのお仕事です。脱がせ方にも細かな決まりがあるのは言うまでもありません。

 浴室も体の洗い方、髪の洗い方のすべてに決まりがあります。マリ様の体を洗わせて頂くのですが、一点でも間違うことは許されません。浴室から出ると脱衣場でマリ様の衣服を着させて頂いて、部屋に戻ることになります。

 部屋にはいつもカギが掛けれています。それだけでなくアリサが部屋の扉に手を触れて良いのは掃除の時のみです。ですから扉の開け閉めはマリ様のみが行えます。部屋から出るのは朝の浴室だけですが、部屋から出ると言うのは特別な行事であり、部屋にいる時の数倍の注意が必要です。

 部屋を出る前の姿勢の正し方、部屋から出入りするときの手順、廊下に出ても、どちらの足から出し、どこに足を着けるかも決められています。マリ様も御一緒なのですが、マリ様との距離も重要です。

 廊下や脱衣場、浴室でアリサが見て良いものは決められています。マリ様の御着替えをさせて頂いたり、マリ様の髪や体を洗わせて頂く時に、マリ様のどこを見ても良いのかも当然です。


 浴室から部屋に戻るとマリ様の厳しいチェックの下で、メイクやセット、さらにはメイド服を身に着けます。これも手順、時間、仕上がりが厳格に決められています。アリサもセットやメイクには苦労しました。

 ヘアメイクについては、時々カットが行われます。この時も部屋で行いますが、耳栓をされ、目隠しをされます。この時には服が汚れないようにすべてを脱ぐのも決まりです。カットが終われば、アリサが部屋を掃除します。

 メイクやッセットが終わると朝食になります。マリ様が部屋に来られた時にワゴンを持ってこられていますから、アリサがテーブルにセットをしていきます。食事のための準備もすべて決まり通りに行わねばなりません。

 マリ様の合格を頂くと食事になります。テーブルマナーは極めて厳しく、些細な違反も許されません。食事が終わるとアリサが後片付けをします。

 そこから今は教養の時間になります。テキストとかはワゴンにあり、マリ様から様々な教養を授けて頂きます。ただしノートを取ることは禁じられています。すべて聞いた瞬間に覚え込むのが決まりです。

 前日に御教授頂いたことは翌日に必ずテストをされます。翌日以降でもマリ様は定期的にテストをされます。テストはすべて口頭試問であり、答えられないのは論外ですが、少しでも言い澱んだり、曖昧なところがあるとすべて反省になります。

 これでも言い足りません。マリ様の御質問に対し許される回答はただ一つで、考えるまでもない即答です。回答を考えること自体が、マリ様の教えに対して非礼極まることになるからです。

 ノートを取ることは許されませんがペン習字は教えられました。この時だけはペンと紙を与えられます。これ自体は嬉しいことでしたが、一方でアリサにとって辛い課題でした。お恥ずかしいことにアリサはかなりの悪筆だったのです。マリ様にご満足頂くまでに、どれほどの反省を重ねたか数えきれないぐらいです。

 ペン習字で習うのは自分の名前の書き方です。これは本名であるアリサとカタカナで書くだけではなく、アルファベットやさらに筆記体での練習も行われました。マリ様は書く時の姿勢は言うまでもありませんが、表情や仕草も厳しく躾けて頂きました。マリ様は、

「自分の名前を正しいところに書く時は、アリサの一生に一度の晴れ舞台になり、永遠に残されます」

 そんな晴れ舞台がアリサにいつの日か訪れるのですから、その日のために厳しい修行中です。マリ様の合格点を頂くには、まだまだかかりそうです。

 ペン習字だけでなく授業態度もすべて決められています。授業態度だけではなく、部屋での歩き方、どこを歩いたら良いかもすべて決められています。表情も決められていて、どういう時には、どういう表情を取るかの躾けも厳しく行われ、それを守ることは絶対のものになっています。


 教養は午前に三時間、昼食を挟んで午後に五時間、ビッチリと行われます。こここまで時間が必要なのはアリサがバカだからです。そんなアリサを教えて頂くマリ様には尊敬と感謝しかありません。

 反省の時間は夕食後に持たれます。朝から夕食までのアリサの振る舞いのすべてに指摘が入ります。どんな小さなミスでも必ずマリ様は見つけ出されます。そのすべては、アリサにとっても心からの納得の行くものばかりです。そこから、

「脱ぎなさい」

 アリサはすべてを脱ぎボックスに服をたたんで入れます。この時も反省が追加されることは良くあります。そこから革製の腕輪、足輪を装着させて頂き、壁に反省の姿勢を取った後に、

『ビシッ』

 今日の反省分のムチが入ります。ムチは痛いものです。それでも言い足りません、あれは激痛です。ですがアリサはその一打、一打にその日の反省を込め、さらに反省をさせて頂くマリ様に感謝を捧げ続けます。

 痛みに耐えながら感謝の念を高めるには長い時間が必要でしたが、マリがそれが出来るところまでマリ様に導いて頂きました。ですから鋭すぎる痛みを受けるたびに、すぐさまに感謝の気持ちが湧きおこるだけでなく幸せや喜びを感じています。

 マリ様のムチの一つ一つがアリサを変えてくれるからです。至らぬアリサを幸せなアリサにしてくれるのがマリ様の愛のムチなのです。これだけ厳しくしてくれるマリ様がいなければ、アリサは到底ここまで来ることは出来ませんでした。

 アリサが目指すのはマリ様が導いてくれる真のアリサになることです。これはマリ様も時折触れられます。ですが真のアリサとは何なのかは教えて頂けません。真のアリサとは教えてもらうものではなく、そこに到達するものなのです。

 マリ様とは会話することは基本的に許されていません。ただマリ様の言葉を頂き、その言葉通りに従うことがすべてです。アリサが言葉に出来るのは、マリ様の質問の範囲にのみ許されます。マリ様がワゴンの入れ替えで部屋におられない時も同様で沈黙が決まりです。

 反省のムチの時の悲鳴も許されません。これも辛い決まりでした。この決まりが守れるようになったのは、マリ様の言葉通りに痛みに感謝し、喜びにすることが出来たからです。そうして頂いたマリ様こそアリサの憧れであり、最も尊敬する人になります。


 反省の時間が終われば腕輪や足輪が外され、アリサは改めてマリ様に今日一日の感謝の念を心から申し上げます。この言葉を口にするときには、アリサがその日に感じたことを自由に話すのを許されます。

 この時に膝を床に付け、頭も床までつけるのは言うまでもありません。これはマリ様が部屋を出られてからも続けます。これは決まりではありませんが、そうしたくなる気持ちが自然に湧きおこります。出来れば翌朝にマリ様が訪れるまで、そうしておきたいぐらいです。

 ここからはアリサの自慢なのですが、ついにマリ様からメイク落とし一式を洗面所に置くお許しを頂きました。この許しを頂いた時にどれだけ嬉しかったかわかって頂けるかと思います。

 それが並んでいるのを見るたびにアリサは誇らしい気分になりますし、許しを頂いたマリ様に感謝と尊敬の念が止まらなくなります。これはアリサの宝物です。ですからマリ様に教えられた通りの手順でメイクを落とし、もしどんな些細なミスがあっても必ず報告し反省させて頂きます。

 そこから朝まではアリサは部屋で一人になります。自由時間と思われるかもしれませんが、決して勝手気ままに過ごして良い時間ではありません。当たり前の話ですが部屋で夜を過ごすのも決まりがあります。

 まずは沈黙を守ることです。歌を歌うなんて論外も良いところで、独り言も許されません。動いて良い範囲は、椅子とベッドと御手洗への往復のみです。好き勝手に部屋を歩くなどトンデモないことになります。

 それより、なによりマリ様が部屋から出られてしばらくすると照明は消されます。その間にメイクを落とさせて頂くのです。スイッチはどこにあるかはわかりません。月がある夜はまだ良いのですが、新月の時には御手洗も手探りになります。

 夜にアリサに与えられた最も大事な決まりは寝る事です。十分な睡眠を取り、疲労を取り去り、翌日のマリ様の教えを少しでも覚えやすくするようにしなければなりません。言うまでもありませんが、テレビやラジオはもちろんのこと、本もありません。本どころか紙きれ一枚部屋にはありません。


 ベッドに着いたアリサは、その日に教えられたことをひたすら思い返し、翌日に備えます。マリ様が望む真のアリサに少しでも早く近づくためです。こんな喜びに満ち溢れた生活を与えて頂いたマリ様に深い深い、これ以上はない感謝の念を捧げて眠りに着くのです。

 最近では真のアリサはどんなアリサか考える事も多くなりました。真のアリサになれた時に、真のアリサに相応しい使命が与えれるのじゃないかです。今のアリサでは及びも付きませんが、誇らしい使命を授かるはずです。

 使命を果たせるのは真のアリサにのみに許され、その使命を果たしていくことがアリサの生きるすべてになるはずです。そうなれた時にどれほど嬉しいか、幸せなのかは今のアリサでは想像すら出来ません。

 ですがそこにいつか到達できるのだけは間違いありません。マリ様が必ず連れて行って下さいます。そうなんです、アリサはこの世で考えられる最高の環境を与えられ、いつの日か真のアリサになり与えられた使命を果たせるのです。そこまで考えた時点でアリサの悩みは消え去り深い眠りに落ちます。

謎のレポート(第15話)教養

 道が見えてきたアリサにマリ様は、

「アリサには教養が必要です」

 アリサって義務教育だから中学を卒業できたようなもの。それぐらいのバカ。でもそんなアリサにこれから必要なものをマリ様に教えて頂けることになったんだ。これはアリサが進んで行くのに必要なものだし、なければ進めないもの。

 とにかくバカだから、笑われちゃいそうだけど、なんと漢字から始まった。それぐらいアリサはバカすぎた。難しい字も多かったけど、意味もちゃんと教えて頂いた。だいぶ反省させられたけど覚えて行った。

 英語もあった。マリ様はアルファベットで覚えなくても良いと仰られて助かったと思ったけど、色んな単語を教えてもらった。言葉の教育は意味だけじゃなく、その言葉が具体的にはどんなことをするのかもあったんだ。

 ちょっと変わった事をするのが多かったし、アリサもいきなり出来るか自信がなっかたのよね。なんでもそうだけど、聞いただけですぐに出来るものじゃないじゃない。だから、まず聞いて覚えて、実地の練習があるはずと思ってた。でもマリ様は

「それは自ら経験して覚えるのです。だからこれは教養です」

 ちょっと変わった事の中には、怖いと言うか、そんなことを本当にするのかみたいなものもあったけど、

「今のアリサでは難しいでしょうが、いつかわかる日が来ます」

 バカだから仕方ないかもね。一方で、

「こういう知識は不要です。今すぐ忘れなさい」

 マリ様に教えて頂いているのは、アリサなりの理解で言えば、正しい女のあり方ぐらいかな。でもアリサには間違ってるどころか、不要な知識がテンコモリあったんだよ。覚えるより、忘れる方がラクチンだからマリ様が不要と仰られた知識は片っ端から忘れたよ。覚えてたって邪魔にしかならないし。

 間違いの訂正もテンコモリあった。あんまり多すぎて、全部じゃないかと思うぐらい。どれだけアリサがバカだったかわかったもの。さらにと言うか、もちろんと言うかだけど、アリサが覚えなければ事も山のよう。だから不要と言われ物はトットと忘れないとアリサの頭がパンクしちゃうじゃない。

 マリ様が言うには、正しく女が生きるために、世の中には間違った常識が多すぎるとしてた。これはマリ様の教えを受ければ受けるほどアリサもそうだとしか思えなかったもの。よくそんな事で女でございと生きてられるものかと不思議だったもの。

 マリ様の教養の教えはアリサにとって目から鱗のことも多かったけど、同時にどれほどバカな考えを持って、不幸な生き方をしていたかもわかっちゃんたんだ。そうなんだよ、マリ様はそんな不幸な境遇のアリサを救おうとしてくれてるんだ。

 マリ様の教えてくれる世界は、アリサにはまだまだ難しい事がいっぱいあったけど、マリ様の教え通りに従えば、夢のような世界がアリサが行けるのは良く分かったもの。そうだね、アリサが道を進むためにも絶対必要だし、進んで行って、いつの日か目的地に到着した時に知っていなければならないものぐらいの感じかな。


 マリ様の教えをアリサは懸命になって吸収したよ。マリ様は口癖のように仰られていたけど、

「これをアリサを覚えてるだけでは意味がありません。覚えて、考えて、行動しただけでも無意味です。アリサの心に深く刻み込み、考えるのではなく、自然にそうしたいと動かないとなりません」

 この言葉はアリサの胸に響いたもの。考えたり、悩んだり、ためらったりするようじゃダメなんだって。アリサが幸せになるためには、全部自分の物にしないとならないって。実はねこの大事な言葉もバカなアリサには最初は難しすぎたんだ。だからマリ様は、

「美味しいものを食べたら美味しいと思い、楽しいことがあれば楽しいと思い、嬉しいことがあれば嬉しいと思うのとまったく同じです。そう思う時にアリサは、なにも考えないでしょう」

 わっかりやすいでしょう。美味しいとか感じた時に理屈じゃないものね。楽しいも、嬉しいもそう。正しい女の生き方もそうで、マリ様の教えが何も考えずに出ないと意味がないってこと。アリサはまだまだだけどね。

 ホントにマリ様の教えはわかりやすいし、バカのアリサでもわかるように、こんなに親切に熱心に教えてくれるんだ。もっともアリサはバカだから、いつもしっかり反省してる。そうなんだよ、反省までマリ様は一切の手抜きがないから尊敬しちゃうんだ。

 とくにアリサが女としてやらなければならないこと、とくにこの世でなにがあっても大事なことについては何度も、何度も、バカのアリサでも忘れないように叩き込んでもらった。嬉しかったな。

 それはね、簡単に言うと、女が一番大事にしなければならない事。そんなものじゃない、この世に女の存在が許されてるぐらい大事なことなんだ。これを大事にしないと女なんて価値すらなくなっちゃうぐらい。

 子どもを産んだりとかとはまったく違うよ。アリサは産めないらしいけど、大事なことのためには、産めない方が良いとマリ様はしてた。ここもちょっと違うな、子どもを産むなんて女に取って、大事なことに比べれば些細すぎることぐらいだって。

 大事なことってなんだになるけど、女であることの存在価値のすべてかな。そのために女はこの世に生まれ来て、女であることのすべてを捧げるぐらいでそんなに間違っていないと思う。

 この辺はアリサにはまだ難しいところがあって、マリ様は「すべて」じゃ、全然足りないし、どう言ったら良いのかな、アリサの根っこみたいなところから捧げても全然足りないとされてた。

 とにかく大事だし、これはすべての基本中の基本で、ここからアリサの幸せが花開く重要な出発点みたいなもの。それだけは疑いようがない。というか、マリ様の言葉は、難しくてわからないこともあるけど、疑ったりする必要がないから、聞いてる方はそこはラクチンなんだ。そのまま信じたら良いだけだもの。

 逆に絶対にやってはならないこともあった。アリサは知らなかったけど、この世の女はやってるのが大部分と聞いてビックリしちゃったもの。ここもちょっとだけ難しいところがあったんだ。

「アリサの意思でするのは決して許されません。これはアリサが生きる限りのタブーです」
「マリ様、どういう事ですか」

 ここも実は反省になるところ。だってマリ様の許可なく質問は許されないし、マリ様の言葉に疑問を持つことは論外なんだ。でも、アリサはバカだし、躾けもまだ十分じゃないから思わず出ちゃったんだ。もちろん反省したよ。

「いずれアリサもこの言葉がわかる時が来ます。今はタブーとだけ覚えておけば十分です」

 まさにピシャリだった。ぼんやりだけどアリサがわかってきたのは、アリサの進んだ先には喜びが待ってるけど、その喜びはアリサが求めるのじゃなく、与えられるんだろうって。自分で求めるのはタブーぐらい。この辺はまだまだ勉強中だし、アリサが成長すればわかるようになるってマリ様も仰られていた。


 とにかく覚える事が多かったから、バカなアリサはなかなか覚えられなかったんだ。それがどれだけ悔しくて、悲しかったか。そんなアリサにマリ様は惜しみなく愛のムチを揮ってくれた。このムチにアリサはどれだけ勇気づけられたかわからないぐらい。

 ひたすらにアリサは努力し、精進を重ねた。アリサはマリ様を尊敬する。だって、バカなアリサが覚えるまで、こんなに教えて頂けるんだもの。それにマリ様が教えてくれる教養はアリサの世界を変えてくれる。

 マリ様の導く世界がどんなに素晴らしいものなのかが、バカのアリサでもドンドンわかってくるんだ。その世界に行くには絶対に必要な知識なのはわかるもの。一つ覚えるたびに、アリサが進んで行く実感は確実にあった。

 どれぐらい経ったかなんてわかりようもないけど、長かったのだけは間違いない。来る日も、来る日もマリ様の言葉にひたすら耳を傾ける日々が過ぎて行った。マリ様は不要な知識はすべてアリサから削ぎ落し、教え直し、必要な教えを刻み込んでくれた。そしてついに、

「アリサ、良く頑張りました」

 この言葉を聞いた瞬間にアリサはまた大きく変わったと感じました。これは進化したとも言えますし、アリサの道を大きく進ませた気がします。いやこれでは足りないかもしれません。アリサは何か決定的な変化をしたはずです。

 どう言えば良いでしょうか、もう後戻りできないとこまで進んだと言えば良いのでしょうか。これは悪い意味ではなく、良い意味でです。一つ大きな難所を越えたとか、関所を潜り抜けたに近いかもしれません。

 アリサは進むべき道こそ感じていましたが、進んだ先にあるものが何かはこれまでボンヤリしていました。そんなアリサの前にあった霧が、さっと晴れた感じなのです。それはマリ様が常にアリサに示されているものです。

 それが見えた瞬間にアリサは震えました。体だけではなく、心が、魂が震えたとして良いでしょう。そうだ、これだったのです。まさにアリサが望んでいたそのものに違いありません。わかった瞬間に感激の涙が止まらなくなりました。こんなもの止められるわけがありません。

 アリサが目指すのは単に立派な女じゃない、正しい女じゃない。それは過程の一つで、マリ様が導く真の女、真のアリサになることなのです。なんて素晴らしい目的なのでしょう。真の女、真のアリサを目指さなければ女として生まれた価値などありません。

 おそらく多くの女は真の女がこの世にある事さえ知らずに死んでいるはずです。たとえ知っても、そこにたどり着ける女など滅多にいないはずです。それぐらい価値があり、手にしがたいものが真の女です。

 ですがアリサでもその道はまだ遥かに遠いものでもあります。マリ様からお褒めの言葉を頂きましたが、これで教養をマスターしたわけではありません。やっと基礎部分の成果を認めて頂いた程度なのです。

 それと教養が高まると、アリサの立ち居振る舞いの下品さが嫌でもわかります。こんな無様な状態では真のアリサなんて名乗るのもおこがまし過ぎます。それがわかったのも、マリ様のお蔭で真のアリサと言う生きるための到達点がわかったからです。

 真のアリサへの道はまだまだ遠いものがあります。でも今までのアリサとは違います。そう目指す高みが遠くでも見えてきたのです。ですから、いかに遠くともアリサは真のアリサにならないといけません。
それこそがアリサの生きるすべてであり、たとえこの命を犠牲にしても手にしないとならないものです。

 マリ様ならアリサを真のアリサに必ず導いて頂けるはずです。アリサに取ってマリ様こそ世界のすべて、アリサの救世主なのです。もうなんの迷いもありません。この館に入らせて頂いて、マリ様に出会えたことでアリサの人生が変わり、真のアリサを目指せる幸せに巡り合えたのです。

「アリサ、やっとわかったみたいね」
「ありがとうございます」

 部屋の中がバラ色に輝いているようにアリサは感じました。この日の感動をアリサは一生忘れないと思います。

「でもアリサ、覚える事はまだまだあるよ」
「はい、マリ様」

 今日も反省の時間が来ました。至らぬアリサにマリ様から愛のムチを頂きました。でも今日のムチは昨日までと違います。マリ様の愛がより深くアリサに伝わってきます。マリ様の愛のムチの一打一打もまた、アリサを真のアリサに導いて下さいます。

謎のレポート(第14話)覚醒

 次の日もマリは部屋に来て女教育を始めた。だが昨日とはオレとは気持ちが全然違う。マリの小言が一つ出るたびにオレはムチの恐怖に震えた。マリの小言の一つ一つがすべてムチになるのは教えられたからだ。

 オレは必死なんてものじゃなかった。なんとかマリの小言が出ないように全力で女らしく振舞おうとありったけの神経を注いだ。昨日や一昨日にマリの小言をもっとちゃんと聞いておかなかった事を後悔したぐらいだ。

 だがオレがどんなに頑張ってもマリの小言は減る様子もなかった。それでもだ、昨日より格段に良くなったはずだ。夕食が終わり反省の時間が始まった。マリはオレの失敗点をこれでもかと並べ立て、

「服を脱ぎなさい」

 ムチが来る。今日こそ殺される。オレはあらん限りの力を使ってマリに抵抗した。しかし、

「無駄です。これで反省が増えました」

 オレは壁に向かって絶望の姿勢をあっさり取らされてしまった。

『ビシッ』

 まだ昨日の痛みは嫌というほど残っている。一発目からオレは絶叫を上げ泣き叫び、ひたすら許しを請うた。マリはなんの容赦もなくオレを打ち据えて行った。何を言っても、どんなに泣き叫んでも叩かれ続けた。


 夜は昨夜以上の苦痛だった。生きているのが本当に不思議だ。だがこのままでは明日も同じぐらいのムチを喰らう。この調子なら明日にも死んでもおかしくない。生き延びるための方法を必死で考えに考えた。

 マリのムチを逃れるには、マリにオレの女としての振る舞いを認めてもらうしかない。そう考えて、オレなりに精いっぱいやったつもりだったが効果はなかった。このまま明日も同じことをしてもムチが来る。

 とにかくマリの教えてくれる事を一つでも聞き逃すとムチ、聞いても即座に出来なければムチ、反抗的な態度なんて見せようものなら論外にムチ。さらに出来たはずと思ってもムチだ。

 マリの目的はシンプルだ。オレを女らしくすことだ。それ以外にないが・・・そうか、女らしくじゃダメなんだ。女にならないといけないんだよ。女らしいふりをしているだけじゃ、マリのムチは変わらない。それがきっとマリの合格基準のはずだ。

 だがどうしたら良いんだ。女らしいふりと、本物の女のふりのどこに違いがあるんだよ。あれかな、心が行動に表れるってやつ。謝る時にも心から謝ってない奴はすぐにわかった。だったらオレの心を女にすれば良いのか。

 だがオレは男だ、女じゃないしなる気もない。ダメだ、ダメだ、ここで開き直ってもマリのムチが来るだけだ。それも痛いだけじゃない、殺される。オレは死にたくない、女の体にされても生きたいんだよ。

 オレはもう元男だ。女として生きるしかないんだよ。生きるためなら元男のプライドなんぞクソ喰らえだ。身も心も女になってやる。不思議だ、そう考えたら痛みが少しマシになった気がするぞ。

 とにかく生き残るための答えは女の心になることだ。でもどうやったらなれるんだ。何から始めれば良いのだ。何もしなければムチが来る。考えろ、生きるか死ぬかの瀬戸際なんだぞ。心だよな、心ですることはなんだ、考える事だが・・・

 そうだ言葉だ。男であるのを捨てるために心の言葉を変えよう。今の心の言葉は、男言葉で考えながら出してるからムチになってるはずだ。心の中で考える時にも女言葉にしないとならない。そうなるとオレはやめるとして、自分のことをどう呼ぶかだ。ここは思い切ってマリに付けられた、

「アリサ」

 こう呼ぼう。やってみるか。アリサは女言葉で考え、女の心で生きていきます。違和感の塊しかないが、やらなきゃ、ムチでマリに叩き殺される。これではダメだ、アリサはマリに叩き殺されてしまうかもしれないだ。

 アリサが・・・気色悪いが生きるためだ。女言葉で考えられるようにすると確実に手ごたえはあった。男言葉で考えた時は一〇〇%ムチだが、女言葉の時はそれなりの回数でマリは認めてくれる。それも女言葉で自然に考えた時の方があきらかに効果がある。

 ひたすら男言葉を頭から追い出したし、男であった事を忘れ、生まれつきの女であると思い込むのに必死だった。それしかマリに認めてもらい生き残れる道がないからだ。マリの言葉、教えられる事を死に物狂いで身に着けた。

 日に日に男言葉で考える時間が減り、女言葉で考える方が自然としか思えないようになって行ったし、名前だってアリサが気に入ったし、なにより体が女であるのが嬉しくさえ思えてきた。

 ムチの数は確実に減っていった。ムチが減ったのは嬉しいけど、それ以上にマリに認めてもらうのが嬉しくなっていた。そんな時にマリから、

「だいぶわかってきましたね」

 この言葉を耳にした時に体に衝撃が起こった。まさにこれは衝撃。心の中の何かが消え去り、さっと塗り替えられた感覚。そうわたしはアリサ、アリサ以外の何者じゃないってね。マリに初めてもらったお褒めの言葉はアリサを完全に変えてくれた。・

 ちょっと間違えちゃった。マリなんて呼んだら心の中でも罰が当たるよ。マリ様だよ。これだって呼ぶんじゃなくて、呼ばせて頂いてるの。それぐらいアリサはマリ様を尊敬してるんだ。

 アリサはね、なぜか男言葉で考えちゃってたのよ。どうしてそうしてたかは、わかんないけど。なぜかそうしてたんだよね。それをね、マリ様が直して下さったの。これを尊敬せずにいられないじゃない。

 そうなんだよ、アリサはしゃべらないといけない言葉をマリ様のお蔭で取り戻すことが出来たんだ。アリサの女言葉? そりゃ、もうバリバリに完璧よ。男言葉なんて使おうと思っても絶対無理。

 うん、これこそがアリサだよ。ちょっと苦労したけど、その分、嬉しくて、嬉しくて。でもね、マリ様のムチを頂けなかったら無理だったかもしれないかも。そうしたらね、マリ様はムチが終わられた時にアリサに、

「ありがとうございました」

 こうお礼を言うように仰られたの。初めの頃は言うどころの状態じゃなかったし、やっと言えるようになっても、今から思えば心が籠ってなかったと思うんだ。それが今では感謝の気持ちを込められるようになってるんだ。

 もちろんここまで来るまでに、いっぱい、いっぱいマリ様にムチを頂いたんだ。どれだけかかったかなんてわかんないよ。でも、今では胸を張って言えるんだ。そうだ、そうだ、信じられないけどアリサは昔に男だった気がする時があるの。

 たまに思い出そうとするのだけど、なかなか思い出せないんだよね。これも、ちょっと前までは、忘れてはいけないと思ってたみたいだけど、なんか今はどうでも良い感じがする。だってアリサは女だし、思い出したってしょうがないもの。きっと何かの勘違いよ。

 今日もマリ様はアリサの至らないところを見つけて下さるし、アリサのためになることを教えて下さるんだ。でもアリサはバカだから、マリ様の言う通りに出来ないことがたくさん出来ちゃうの。

 これってみんなアリサが悪いからだよ。悪いアリサには反省が必要じゃない。そうちゃんと反省しないと立派な女になれないもの。

『ビシッ』

 痛いよ。そりゃ、涙がにじみ出るほど痛いよ。でも、これって当然じゃない。アリサが悪いんだし、そんなアリサを教育してくれているマリ様には、もっともっと悪いことしてるんだもの。

 これは罰だけど、ぜ~んぶアリサのためにしてくれていることだもの。罰を与えてくれるマリ様には感謝するしかないじゃない。

「ありがとうございました」

 アリサはこうやってマリ様にムチを頂けるのをホントに、ホントに感謝してるもの。だってマリ様のムチがなければ、アリサは悪い子のままだったもの。アリサはね、マリ様に色んな事を教えて頂いて、マリ様に認めてもらえるのが嬉しくて、嬉しくて仕方がないの。

 だからここの暮らしは最高なんだ。ここはアリサの知らない事を教えてくれて、アリサを立派な女にしてくれるところだもの。こんな素晴らしいところは、この世に他にあるわけないじゃない。そうしたらある日マリ様から、

「だいぶ良くなってきました」

 この言葉をマリ様から頂いた時に今までにないぐらい強い強い感謝の念が湧いてきちゃった。それだけじゃない、アリサの中の何かが確実に変わったと感じたんだ。それも良い方にだよ。それよりアリサが感動したのは、アリサが進むべき道が見えた気がする。

 そうだ、あれこそアリサの進んで行く道よ。やっと見つけた気がする。そこに進むためにアリサは生まれ来て、やっと巡り合たんだ。それがわかったアリサから出た感謝の言葉は、

「マリ様のお蔭で、アリサの進むべき道がわかりました」

 アリサを幸せにしてくれるすべてがここにある。それを教え導いてくれるのがマリ様。マリ様のお蔭で女の本当の幸せが何かがやっとわかってきた。アリサも努力すれば、あんな夢のような幸せをつかめるんだ。マリ様への感謝の気持ちが泉のように湧いてくる。

「今日の反省です」

 これからもらえるのはマリ様のムチだけど、今までのムチとはちがう、これこそ正真正銘の愛のムチ、

『ビシッ』

 至らぬアリサを教育して下さっているマリ様の愛情の塊、この痛みの一つ一つにマリ様の優しさが込められている。

「ありがとうございました」

 もう心の中は感謝で満ち溢れている。それだけじゃなく嬉しいんだ。ムチの痛みこそが、マリ様の愛そのものだと全部わかった気がする。マリ様は罰を与えてるんじゃない、アリサに愛を与えて下さってるんだ。

 ああやっと、こうなれたんだ。アリサはここまで来れたんだ。来れたからアリサの道も見つけれたんだ。ここまで来れたのはすべてマリ様のお蔭。アリサはマリ様にどこまでも付いていく。