流星セレナーデ:瀕死の母星

    『カランカラン』

 いつものバーだけど、今日はフィルと一緒。聞きたいことがあるって、そりゃそうでしょうねぇ。

    「ミサキ、社長はどういう人なんだ」

 今から五千年前にエレギオン王国を起し、コトリ副社長と共に延々と統治を続けていたことを教えました。

    「ミサキや専務は四千年前に副社長が作ったのか、いや作れるものなのか」
    「そうよ」
    「社長は三千年にわたって、王国を運営し、王国滅亡後は千六百年に渡ってエレギオンの遺民を守り続けたってことか」
    「そうだよ、だから政治にしろ商売にしろプロよ」

 フィルは神の力を知りたかったみたいだから、女神の喧嘩の話をしてあげた。

    「それがおふざけ程度?」
    「本気でやればクレイエール本社ぐらいは、あっと言う間に瓦礫の山にしてしまうよ」
    「ミサキも出来るのか」

 神によって能力特性があり、出来ることは神によって異なるって教えておいた。

    「神を殺すとはどういうことだ」

 神は神にしか殺せず、神同士の戦いは純消耗戦らしいとだけ話しておいた。

    「社長は強いのか」
    「四人の中では最強かな。四人以外でも二番目になるけど、実質的に最強と見て良いよ」

 若く見えるのは神の力かと聞かれたので『そうだ』と答えておいた。ただし男に宿ってもそう出来ないらしいも一緒に伝えといた。ちょっと残念そうな顔をしてた。そこに、

    『カランカラン』

 コトリ副社長が登場。

    「フィル、つかまえた」
 副社長が聞きたいのは母星の話。聞いているとテクノロジーの進歩は凄いけど、地球とよく似ているのに改めて驚かされた。考えようによっては先祖が同じというか、地球は分家みたいなものだし、環境的にも良く似ているようだから似ていても不思議ないかもしれない。

 ただフィルにしても母星が本当に栄えていた時代は知らなかった。フィルの四世代以上前から戦乱で母星は荒廃し、ひたすら生き残るのに必死だったで良さそう。それでも秘密研究所を見つけてから、そこに残されていた資料を読んでいたから、かなり詳しく歴史を知ってるみたい。

    「その母星はなんて呼んでたの」
    「エランと呼んでいた」
    「なるほどね」

 そういえばアラッタはエラム文明圏の都市国家。なにか関連性があるのかもしれない。

    「フィル、生殖行為はどうしてたの」

 ミサキは思わずむせ返りそうになりましたが、

    「繁栄していた時代には完全人工繁殖をしていた時期もあったとなっている」
    「人口コントロールのため?」
    「それもあったが、遺伝子病の撲滅の目的もあったと書いてあった。ただ、結構不評だったようで、なんだかんだと抜け道があったようだ」
    「フィルの知ってる頃は?」
    「男性が女性を見て性的興奮が惹起され海綿体が充血し男性器が勃起する。同じく男性により性的興奮が惹起された女性器に粘液が分泌される。男性器を女性器に挿入し、精子を送り込み卵子に受精させ生殖させていた」

 ミサキはまたむせ込みそうになりました。えらい医学的な表現だけどモロやんか。

    「じゃあ、地球と一緒だね。楽しかった」
    「あれは楽しい行為とされていたが、私は経験が無い」
    「もてなかったの?」
    「まあ、そうとも言えるが、少し違う。これも理由は不明だが、女性人口が減っていたのだ。さらに妊娠できる女性も減っていた。母星の滅亡は時間の問題になっていた。おそらくそうさせるある種の化学兵器の影響か、環境の大きな変化によるものだと考えてる」

 母星の状況は半端じゃないぐらい良くなかったのはわかります。

    「フィルのグループは大きかったの?」
    「たぶん生き残っていたグループの中では最大級だったと思う。秘密研究所には失われた技術がたくさん残されていて、とくにエネルギー発生装置が健在だったのが大きかった。母星の中であれだけのエネルギー発生装置が動かせるグループはほとんどなかったと思う」
    「他のグループが地球を目指す可能性は?」

 フィルはじっと考えて、

    「ゼロではない。戦乱の末の勝者はいるにはいた。あれを勝者と呼べるかどうかは疑問だが、唯一政府の姿を保っていたと言えるかもしれない」
    「どこ?」
    「独裁政府だ。かなりなんてものではない大被害を受けてるし、人口だって二十万人ぐらいと思うが、あそこは生き残っただけあって、かなりの技術が保持されているとされていた」
    「独裁政府による再征服はなかったの」
    「無理だ。とにかく汚染地帯は強烈で、そこを通り抜けることは困難だった。人口だってそれぐらいだから、とても広い範囲を支配するなんて無理だったのだ」

 そっか、独裁政府も母星の再征服より、生き延びるための脱出の方が優先されるかも。

    「では来る可能性があるの?」
    「わからない、ただ・・・」

 これはフィルの推測に過ぎないとしていましたが、あの秘密研究所は戦乱よりはるか前に閉鎖された可能性があるとしていました。長距離宇宙旅行は、相当な昔からほとんど行われなくなり、最後に行われたのが地球への星流しと見て良いとしています。

    「母星は資源不足に苦しんだ時期があったみたいで、これをテクノロジーで克服して繁栄した時代を迎えたみたいだが、根本的な資源不足自体は残り、宇宙開発に使う資源が無駄と判断されたぐらいに解釈している」

 研究所にあった断片的な記録では、各地にあった宇宙開発関連の施設は悉く閉鎖・破壊され、その研究所だけが将来に再び宇宙に出る時のために保存されたぐらいの見方です。そこから、余りにも年月が流れ過ぎ、いつしか忘れ去られていたのをフィルのグループが再発見したかもしれないとしています。

    「でも、よく見つけたね」
    「あれは偶然だったらしい。激しい攻撃で地中深くに埋められていた入口が露出し、これもちょうどうまい具合に入口部分が破壊されていたらしい」
    「では独裁政府に宇宙技術はないかも」
    「それはわからない。ただ、あの研究所の存在の記録が残っている可能性はある」
    「まだ使えるの」
    「かなり傷んでいるが、修理が可能ならば使えるかもしれない。問題は修理技術が残っているかどうかになる。それと原料になる資源の調達が可能かどうかもだ」

 研究所には十隻分ほどの宇宙船を建造できる資源と、動力発生装置を動かせるエネルギーがあったそうだけど、荒廃した母星でこれを再調達するのは至難の業としてた。鉱山も戦略目標として徹底的に破壊されたみたいで、そこを再開発するのは汚染も強いためまず無理だろうとしていました。

    「それと研究所の工作機械は優秀で、コンポーネンツ式にあちこちのパーツを自動的に作ってくれるのだ。それを組み立てて行けば宇宙船が出来上がるはずなのだが、動かない工作機械も多かったんだ。最初にここを見つけたグループの中には優秀な技術者もいたらしく、それなりに修理はしてくれたみたいだが、やはり完全には作動していないものが少なくなかった」

 宇宙船自動生産システムみたいなものみたい、

    「さらに年月が経つうちに故障する機械が増え、これの修理は難しく、他の動く工作機械の流用でコンポーネンツを作っていたんだ。でも完全じゃなかった」
    「地球でも作れるかな?」
    「無理だ。コンポーネントの中身の設計図はあったが、それを自動工作機械無しで再現する技術は母星にも既になく、コンポーネントに求められる機能に近いもので代用品としてた。だから実際に宇宙旅行を行うとトラブルが頻発した」
    「よくそれで地球まで来れたねぇ」
    「幸運だったのが船内の自動応急修理装置がオリジナルで搭載できたことと、ダメージ・コントロール・システムもオリジナルだったからと思っている。ただ、それも、もう修理しないと作れないし、修理も母星の現在の技術ではハードルが非常に高い」

 コトリ副社長が、

    「フィル、寂しいでしょ。一人ぼっちになっちゃって」
    「最初は気が狂いそうだったが、今はかなり慣れた。地球の文明は母星の最盛期に比べると相当遅れているが、私が暮らしていた時代は、その残り滓で生き残っていたようなものなのだ。だから生活も慣れてみれば、それほど違和感はない」
    「でも仲間は」
    「みんな覚悟してた。宇宙船がどの程度の代物か良く知っていたからね。ただ、母星に留まっていても私たちの次の世代ぐらいまでしか生き残れそうになかったのだ。今はたとえ一人であっても生き残れて感謝している」

 そうだミサキも聞いてみたいことが、

    「フィルの本当の名前は?」
    「いや、フィルで良い。母星で呼ばれていた名前は日本では使わない方が良い」
    「でも、教えてよ」
    「バカだ」
    「なるほど。じゃあ、フィルって呼ぶけど、これから今の人格で行くの?」
    「ああ、理由はわからないが戻れなくなってしまっている」
 ん、ん、ん、コトリ副社長のあの目、どこかで見覚えがある。あの目は、えっと、えっと、えっと、そうだ思い出した! 小島知江時代にデイオルタスに溺れこんだときの目にソックリだ。副社長はその気かも、いやガチその気だ。

流星セレナーデ:母星の神との対決

    「まさか生き残っているとは驚いた。記録にはあったが、こうやって実際に会えるとは奇跡だな」
    「大変だったわよ。まあ、そんな話は今度でも出来るから、目的はなんだったの」
    「新天地への移住だ」
 フィルの話では、母星の状態はある種の末期状態としています。ユダが見た独裁政府は続いていたのは続いていたみたいです。しかし独裁政府内での権力争いが起り、ユダが見た独裁者は殺されただけではなく、その後継者も何度も殺されたみたいです。そうやってトップの権力争いが激化すると支配力が落ちてきます。

 母星は一星一政府体制だったのですが、独裁政府の支配力が落ちてくると反旗を翻す独立政府が出来て行ったようです。ただ独立政府も独裁政府を倒すほどの力にはならず、さらに独立政府自体も争う戦国時代の様相になって行ったようです。

 問題はテクノロジーが進み過ぎていること。一星一政府時代は途中から独裁政府になったというものの、戦争は無い時代になっており、大量破壊兵器は破棄され、その製造技術も封じられてしまったようです。しかし、戦争となると過去の技術の復活に躍起になります。とくに劣勢の政府がそうなり、

    「禁断の扉を開いてしまったのだよ」

 大量破壊兵器同士の応酬は人口を急減させ、文明を破壊し、環境を汚染させます。その結果として政府自体も存在が事実上なくなり、各地になんとか生き残った者が細々と暮らす状態にまで追い込まれたようです。

    「私たちのグループは山中の地下に隠された研究工場を見つけたのだ」

 どこかの政府の秘密研究所だったみただけど、残っていた理由は不明としてる。技術拠点としてあえて残していたのか、撤退する時に破壊する余裕もなかったのか、それとも自爆装置の作動不良があったのかのどれかだろうとフィルはしてた。

    「そこで見つけんだよ。神話に伝えられる大宇宙航海時代が実際に存在し、さらには我らが母星と非常に良く似た惑星を発見し、そこに植民活動まで行っていたことを」

 フィルのグループは研究所に残された資料を必死になって研究し、宇宙船の製造と地球への航海法の確立を試みたみたいです。

    「我らが母星のテクノロジーは地球とは比べ物にならないほど高いのだが、我らの知識や技術も等しく高い訳じゃない。何度も失敗を繰り返すことになった」

 三世代かかって、ようやく地球への航路を見つけ、宇宙船もそれなりのものを作れるようになったそうです。

    「後は運を天に任せて飛び立った。技術的に十分じゃない点も多々あったが食糧も、宇宙船を作る資材も、動力源も限界に達しており、すでにテストする余裕も我々には残されてなかった」

 飛び立ったのは三隻だったとしており、積み込まれた肉体は十体ずつの三十体、意識の方は一万人弱ぐらいとしています。

    「意識分離技術はどうだったんだ」
 これは宇宙船製造技術に含まれるものとしてあったそうで、母星の宇宙旅行では肉体はコールドスリープ、意識は分離してカプセルに収容され、操縦はコンピューターによる完全自動操縦であったと見て良さそうです。つまり、目的の惑星に到着するとコールドスリープされた肉体が呼び覚まされ、そこに意識が移り、母星に帰る時に再び意識を分離したぐらいのようです。

 なぜにそんな手間をかけていたかについては、はっきりしない部分があるそうですが、フィルは長期のコールドスリープ技術に限界があったらしいとしています。そのあたりの経緯については研究所の資料でもはっきり書かれたものはなかったそうです。

    「それでは、意識の分離と宿主への移動は機械がやっていたのか」
    「そうだ」
    「では、地球に来た時にどうやってフィルの体に宿ったのだ」
 これも苦心惨憺したものだったらしい。宇宙船の意識分離装置は同じ人の意識を切り離し、元に戻すものですが、それでは宇宙船で母星を脱出できる人数が限られます。そんな人数では誰が乗るかで争いが起きますし、地球にたどりついても人数が少なすぎて大変です。

 そこで自分の体ではなく他人の体に移す改造が行われたそうです。しかし、この技術は独裁政府の機密技術で、研究所にも資料は残されてなかったようです。

    「しかしやらざるを得なかった。可能な限りの人間の意識を地球に運び、そこに我々のはるか先祖の末裔が多くいることに賭けたんだ」
    「出来たのか、その技術は」
    「やはり不完全だった」
 地球への航海は甘くなかったようです。完全自動操縦技術に不安を抱えていたため、肉体の人を定期的に呼び覚まし、ポイントになると考える個所の監視にあたらせたようです。やはり最大の難所は時空トンネルだったようで、ここを潜り抜ける時、二隻は脱落し、フィルが乗っていた宇宙船もダメージを受けたようです。

 ダメージを抱えたままの地球の大気圏突入はコンピュターの判断では無理だったらしいですが、今さら戻れるところもなく強引に突っ込んで行ったそうです。突っ込む判断をした時点ですべての乗組員は意識のカプセルに入ったそうです。これは推測としていましたが、宇宙船のダメージ・コントロール技術はかなり働いてくれたのではないかとしていました。その証拠として意識のカプセルは非常脱出プログラムに従って放出され、カプセルは地球人によって回収されています。

    「何人移れたのだ」
    「私一人だ」
    「他は?」
    「失敗した」

 これもフィルは推測としていましたが、他人に意識を移す技術の未完成さと、やはり地表に衝突した時のダメージがあったのではないかと考えているようでした。フィルが一番だったようですが、次の人の時からあきらかに異常作動している様子が見え、さらに止まってしまったとのことです。

    「社長、聞いても良いか」
    「なんだ」
    「地球でどうやってあの装置を作り維持してきたのだ」
    「地球では装置は使わない。自分の意志だけで乗り移る。だから今でも生き残っておる」
    「そんなことは不可能のはずだ・・・」

 この時にミサキの頭に閃いたものがあります。地球の神はやはり突然変異したのだって。これがユダの放射線防護シールドの欠陥のためかは不明ですが、地球には十万人の流刑囚が送られ、その中で宿主に乗り移れる能力を得たのが一割程度の一万人だったのでないかと。同時に様々な能力も獲得し乗り移れる神となったんだと。

    「フィル、これからどうするつもりだ」
    「それがわからないのだ。私はフィルと呼ばれる人の中で生きている。お蔭で現在の地球の様子や言葉を多く知ることが出来た。しかし私はフィルが死ねばそれで終わりだ。ところで地球にはどれぐらい生き残っているのだ」
    「ここに四人いる」
    「では万単位で生き残っているのか」
    「いや、知る限り後二人だ」
    「たった、六人・・・」

 ユッキー社長は厳しい顔をしながら最後の質問に移りました。

    「フィル。一万年前に送られたわたしたちについての記録はどれぐらい知っておる」
    「かなり残されていた。おそらく最後の長距離宇宙旅行ではないかと考えられる」
    「目的は」
    「クーデターによる星流しとなっていた。当時の技術はよほど優れていたようで、ほんの小さなカプセルに十万人の意識が収容できたとなっていた」

 このあたりはユダの話と一致するけど、

    「それで」
    「これも信じられないのだが、星流しにしたものの意識移動装置は付いていなかったとなっている」
    「この四人は流刑囚の生き残りだ。わかるかフィル。地球に流された流刑囚は神と呼ばれるようになったが、神同士は出会えば殺し合うものなのだ。それ以外の神は知らない。わたしが知りたいのはフィルが、いや母星の神が同様か否かだ」
    「同様であれば?」
    「この場で殺す」

 フィルは驚いたように、

    「私が神かどうかは知らないが、あなた方を殺そうなんて思ったこともない」
    「フィル。地球では神は神の言葉を信じない」
    「でも、あなた方は殺し合わずに共存している」

 ユッキー社長は含み笑いをしながら、

    「何事にも例外はある。例外が起ったから生き残っているとも言える」
    「殺すのか」
    「いや、気が変わった。執行猶予にしておく。コトリ、出来た?」
    「こんなもので十分やと思う。殺し合いもエエ加減あきあきしてるし、母星の話も聞きたいし」

 フィルは動揺しながら、

    「何をした」
    「教えておく。地球の神は相手の神が見える。見えるだけでなく、その力も見える。フィル程度の力であれば、殺すのもたやすいし、呪縛をかけることも容易だ。そして、その呪縛はフィルではふり解けない。悪く思うな、生き残るのは大変なのだ」

 ここでコトリ副社長が、

    「ユッキー、もうその怖い目で睨むのやめたりいな。フィル、あらためてよろしくコトリです。仲良くやろうね。この呪縛だって、フィルに殺意がないって確認出来たらすぐに外してあげるから。そうそう、かかっていたって痛くも痒くもないはずよ」

 ユッキー社長もニッコリ笑って、

    「やだ、またやっちゃった。マジになると氷姫が出ちゃうのよね。気を付けてるんだけど、ちょっと失敗。フィルも色々聞きたいことがあると思うけど、ミサキちゃんにでも聞いといて。ところでフィルは和食がお好き」
    「好きですけど」
    「こんな雰囲気じゃ、味もしないと思うけど、ここの料理は美味しいのよ。とりあえず一万年ぶりに増えた神に乾杯しましょ。フィルも辛い思いをしてここまで生き延びたんだから、楽しんでね」

流星セレナーデ:料亭密談

 今日は例の料亭での密談です。彗星騒ぎのドサクサで手に入れた資産の活用方針が中心で、とくに今後の海外事業部のあり方について話合っていました。その辺が一段落したあたりでシノブ専務が、

    「フィリップ・スミスとカバーキ村とは直接の関係はありません」
    「そうなんだ」
    「でも、彗星が落ちた頃にはカバーキ村にいたと見て良さそうです」

 カバーキ村とは彗星から分離したカプセルが見つかりマスコミに報道されたところです。フィルの学生時代の友人がカバーキ村の出身で、彗星騒ぎの時に沿岸部の津波を避けるために、そこに招待されて身を寄せていたとなっています。

    「成績は」
    「明らかに良くなっています」

 フィルが通っていたのが西オーストラリア大学。オーストラリアの名門大学で『グループ・オブ・エイト』に含まれています。シノブ専務はフィルの大学時代の成績の変動を調べ上げています。

    「たしかに、明らかに成績は良くなってるわ。でも、ダントツってほどじゃないね。言葉や態度は?」
    「とくに変化はないようです。これについては、香坂常務が詳しいと思います」

 まさかフィルが、

    「社長、見えるのですか?」
    「そういうこと」

 そうなると、

    「フィルの神は母星の神なんですか」
    「可能性があるから本社にいてもらってる」
    「フィルの力は」
    「見えている範囲ではミニチュア神に毛が生えた程度。もっとも、これは強大な神ならそうできるからね。でもね」
    「でも、なんですか?」
    「強大な神が力を隠す時は意識してやってるの。意識してやってるということは、神として目覚めてることになるから、地球の神なら必ず敵対行動を起こすのよ」
    「ではまだ眠ってるとか」
    「眠っていても力の大きさは見えるのよ。むしろ眠っている時の方がわかりやすいぐらい」

 なんか微妙な言い回しだなぁ、

    「わかんないところが多すぎるのだけど、地球の神で記憶を継承できる能力を持つ神は少ないの」

 それ以前に神自体がほとんどいませんが、

    「これはあまり聞いて欲しくない話だけど、記憶を継承できる神は基本的に相手の人格を乗っ取るの」
    「でも、ミサキやシノブ専務は」
    「あなたたちは特別設計なの。宿主の人格に融合しながら、やがて神の人格に変わって行くの。途中から宿主にされた人間は自分でも気づかないけど、今のミサキちゃんも、シノブちゃんも間違いなく三座・四座の女神そのものなのよ」

 ミサキはそうなってたんだ。自分は変わっていないって思ってるけど、やはり女神が宿ってから変わってしまってるんだ。でも、それほど悪い気はしないわ。記憶の中ではちゃんと一人のミサキだもの。

    「ではフィルは記憶を継承しない神とか」
    「ミサキちゃん、こんな芸当がユッキーの他に出来る神がいるかどうかが疑問やけど、棲んでるだけって可能性もあるんや」

 そんな芸当をユッキー社長が出来るのは知ってる。山本先生に棲んでる時も、相本准教授に棲んでる時もそうしてた。

    「フィルの神は棲んでるだけとか」
    「まずね、フィルには神がいるのは間違いない。これはわたしもコトリも確認した。でも、フィルの人格に変化が見られないのはミサキちゃんもわかるよね」
    「はい」
    「単に棲んでるだけで地球の言葉や習慣とかをフィルを通して学習中の可能性がある」
    「それじゃ、学習が終わったら」
    「フィルを乗っ取る可能性がある。棲んでるだけの傍証として、フィルの学生時代の成績、クレイエールに来てからの成績もそれなりに優秀だが、神としての優秀さには程遠いよ。融合中ならもっと良くなる」

 融合例としてシノブ専務がいます。シノブ専務はユッキー社長から四座の女神を移されてからクレイエール流に言えば天使となり、たった三ヶ月でヒラ社員から部長まで駆け上がっています。ミサキも実感はないですが、イタリアで目覚めてから対魔王戦でコトリ副社長と『鉄人コンビ』を組めるほどになっています。フィルはどうかなんですが、本社ジュエリー事業部に勤務してから優秀ではありますが、格段に優秀って訳じゃありません。ん、ん、ん、ちょっと待った。

    「ミサキがフィルの担当なのは、フィルが攻撃するかしないかのテストだったとか」
    「そうよ。それと見えてるかどうかもテストしてたの」
    「それって」
    「フィルが地球型の神で見えていたら必ずミサキちゃんを襲うわ。襲わなかったから、見えてないか、見えてても襲わなかったのどちらかが考えられる」
    「ちょっと待ってくださいよ。もし襲われてたら」
    「ミサキちゃんに攻撃する力はないけど、フィル程度の力ならなんとかなるわ。シノブちゃんにやらせると一撃で本社ビル壊しかねないから」

 ミサキはぷんぷん怒ったのですが、適当に宥められてしまいました。

    「どうするのですか」
    「これから決める」

 そこに料亭の女将の声で、


    「お連れ様をご案内しました」

 見るとフィルが来ています。フィルもさすがに社長や副社長、さらには専務のことを知ってますから丁重に挨拶をし、席を勧められて座ります。そうそう、今日は佐竹本部長が欠席です。理由は出張中ですが、おそらく神の戦いに巻き込まれるのを避けたためだと見て良さそうです。

    「フィル、お久しぶりね。わたしとコトリのどっちを選ぶか決めた?」
    「えっ、なんのお話でしょうか」
    「誤魔化してもダメよ、ミサキちゃんから聞いてるんだから」

 フィルの顔が見る見る真っ赤になります。こういう所は学生の時から同じですから、ミサキの隣に座ってるフィルは人の人格と見て良い気がします。でも、これからどうやってフィルの中の神と話をする気だろうです。かつて山本先生のところにユッキー社長が宿られていた時に、これを呼び出すのにさんざん苦労させられたことが思い出されます。

    「フィル、日本語もだいぶ上手になったけど、やはり英語の方が話しやすいかしら」
    「まあ、どうしても」
    「じゃあ、こっちならどうかしら」

 この言葉って、えっ、フィルの様子が明らかに変わっています。

    「やはり英語にしましょう」
    「そっちも勉強中じゃないの」
    「その言葉も古すぎて、今ではだいぶ変わってるもんでね」
 これはフィルの話し方じゃない。別人だ。

流星セレナーデ:支社強化

 彗星騒ぎでクレイエールはクール・ド・キュヴェやジュエリーが飛ぶように売れたり、六甲山の保養所が売れたりしましたが、ミサキはトータルとしては損失の方が多いと思っていました。ところが蓋を開けてみるとアングリするような状況になっています。

 株式証券市場も乱高下から、ついには大暴落になり市場自体が閉鎖されてしまったのですが、底値を狙ってこれでもかの買い入れを行っています。これは市場からだけではなく、投資家との直接取引も多数あったようで、株式証券市場が回復すると時価総額がエライ事になっています。

 それと日本では割と平穏でしたが、そうでない国の方が多かったのです。そういう国では政情不安に陥るのですが、その混乱に乗じて高級時計メーカー、高級ワイナリー、高級レストラン、さらには高級ホテルまで捨て値に近い値段でゴッソリ買収しています。それ以外にも買収したリストが延々と並んでいるのには仰天させられました。

 六甲山の保養所こそ売却しましたが、一方で日本だけでなく世界各地の一等地の不動産をこれまたタダ同然みたいな捨て値で買いまくっています。どれだけ買ったんじゃとあきれるぐらいです。コトリ副社長に、

    「前に彗星騒ぎで乗じるのは女神の矜持に関わるって仰ってましたが」
    「買ってくれっていうから買っただけ」
 そりゃ、彗星騒ぎの時には経済どころか人類の滅亡クラスの問題になってました。そのために、この先を悲観して投げ売り状態になってるところが数多くありました。そこに『買ってやろう』と声をかければ、買えたとは思いますが、それにしてもの規模で驚かされるばかりです。

 それと、これだけの買収や投資となると重役会議だけではなく取締役会議の了承が必要なはずですが、彗星騒ぎがある程度広がった時点でユッキー社長は、

    「非常事態に迅速に対応するために、経営の大権を社長の独断に委ねてもらう」

 そう宣言して、なぜか会議室の花瓶の水をぶちまけました。あれはなんだとコトリ副社長に聞いたら、

    「エレギオンの時の女神大権みたいなもの」
    「花瓶の水の意味は」
    「そうするのが慣習やねん」
    「なにか謂れがあるのですか」
    「コトリも忘れてもた」
 結局のところクレイエールは彗星騒ぎをしゃぶるように利用し尽くし、彗星前よりさらにというか、非常に大きな規模に成長しています。この大きくなったクレイエールの販売を強化するために海外支社の拡充整備を行っています。

 これまではパリにヨーロッパ支社、ニューヨークに北米支社があり、他は連絡所程度のものでしたが、顧客へのサービス強化のために支社に格上げ強化されたのです。具体的にはヨーロッパではパリ以外に、ロンドン、ローマ、ベルリン、マドリード、アムステルダムなどの主要都市。アメリカ大陸でもロサンゼルス、オタワ、リオデジャネイロ。アジアも北京、ニューデリー、中近東ではカイロ。オーストラリアもシドニーに支社を設けています。

    「それにしてもシドニー支社は立派ですねぇ」
    「あれ、まあ、ユッキーも必要だろうって」
 海外支社の拡充とともに、現地社員の大量採用も行われています。従来の規模なら日本からの海外異動でだいたい済んでいたのですが、そんな規模ですむ話でなくなっていますし、現地社員がもたらす情報も重要になるからです。

 現地採用者については現地支社限定採用者と、そうでない者がいます。そうでない者は妙な表現ですが、もう少し正確に言い直すと、

  • 現地国内のみ活動する社員
  • 世界中のクレイエールで活動する社員
 すべての社員に、世界のあちこちに広がる支店への転勤は無理だろうぐらいから出来た制度です。これは海外社員だけではなく国内社員にも適用されています。そのために本社にも、海外支社からの勤務者が増えています。

 本社勤務になる海外支社からのスタッフですが、これも二種類に大別されます。一つは通常の異動によるものです。こちらについてはまだ現地採用者が採用され始めて日が浅いのでまだ現われておりません。もう一つが見学・研修のためです。

 見学・研修と言っても、これは現地限定採用者から、そうでなくなるためのステップみたいなもので、ある種のテストみたいなものです。逆に言えばここをクリアして幹部社員への道が広がるみたいなところがあります。

 ミサキが担当しているジュエリー事業にも、シドニー支社からフィリップ・スミス君が来ています。このフィリップ・スミス君はミサキも旧知の人です。『フィル』と呼んでますが、学生時代にミサキの家に三ヶ月ほどホームステイしてたからです。フィルは大学卒業後にクレイエールの現地社員の募集に応じ、希望して日本の研修に来てるってところです。なかなか可愛いところがあるのですが、困るのはミサキのことを、

    『魔女』

 こう呼ぶのですよねぇ。これはホームステイに来た時に、ミサキを少し年上のお姉さんぐらいと信じ込んでいたことに始まります。

    「最初はサラの姉って思ってたんだ」

 これがサラとケイの母であること知って驚いたそうですが、それでも、

    「十代で結婚して、子どもを産んでたと思ってた」

 三ヶ月もいればミサキの歳もバレますから、

    「オー・マイ・ガッ」

 てなところです。フィルがホームステイしている間にユッキー社長や、コトリ副社長も遊びに来たことがあるのですが、当時のフィルの怪しい日本語でお二人が社長とか副社長とも気づくはずもなく、

    「あの二人は独身か」
    「そうだよ」
    「ミサキみたいに魔女のように若く見えるということはないか」
    「ちょっと若く見えるけど、ミサキほどじゃないよ」
    「あの二人もクレイエールの社員か」
    「そうだよ」

 まさかと思いますが、フィルは社長か副社長を口説き落とすためにクレイエールに入社したとか。これも聞いてみたのですが、

    「ボクを見損なわないで欲しい。あの二人『が』ではなく、あの二人『も』だ」

 はい、しっかり目標にされてました。でもフィル、あのお二人は手強いですよ。フィル君がジュエリー事業部で研修している時にユッキー社長に呼ばれました。

    「ミサキちゃん、フィルはどう」
    「はい、真面目に研修に取り組んでいます」

 社長もフィルのことは知っています。ただ、フィルが日本に来てから一度もお会いしてないはずです。

    「評価は」
    「イイんじゃないでしょうか」
    「フィルの希望は」
    「将来的には本社勤務だそうです」

 ユッキー社長は少し考えてから、

    「フィルは日本に残しといて」
    「えっ」
    「ミサキちゃんとこで良いわ。コトリのところにするほどじゃないと思うし」

 どういう意味だろう。それからニコッと笑われて、

    「ミサキちゃん、そろそろ社長室のカーペット敷こうよ」
    「ダメです」

 とはいうものの、とにかく家一軒分相当の豪華仮眠室が出来ており、社長も副社長も誰かと会う時にはリビング・ルームを使うことが多いようです。

    「社長、聞いてもイイですか」
    「な~に」
    「ひょっとして、この社長室を使われるのはミサキと話をするときだけですか」
    「さて、どうかしら」

 そこにコトリ副社長がエレベーターから出て来られ、

    「コトリ、なに買ってきたの」
    「燻製作ろうって思って」
    「でも煙は困るわよ」

 前に仮眠室の庭でバーベキューをやられ。火災警報は鳴る、スプリンクラーから放水されるはの一騒ぎが起ってます。そうなることぐらい気づけよと思ったものですが、懲りられたのは懲りられたようです。

    「それがやね・・・」

 大型のオーブンとスターぐらいの大きさですが、煙もほとんど出ずに燻製が出来るそうです。

    「そりゃ便利そう。とりあえず何を作るの」
    「とりあえずウインナーと卵とチーズでやろうと思て買ってきた。ソミュール液も買って来たから豚とか鶏も出来るで」
    「うわぁ、楽しみ」
    「今夜はこれで一杯」
    「うん、うん」
 この仮眠室ですが、どうもお二人は別荘というか別宅代わりに使われてる気配が濃厚なのです。会社の私物化と言いたいところですが、彗星騒ぎの時の財テク手腕は卓抜でしたし、それより何より仮眠室が出来てから女神の喧嘩がなくなってますから、ま、これでいっか。

 ただコトリ副社長が帰って来たのでお二人は燻製作りに熱中してしまい、フィルの本社採用の理由を聞きそびれてしまいました。それにしても、いつもながら思うのですが、あれだけ忙しいのに、こういう遊びの時間はちゃんと作り上げてしまうんですよねぇ。

流星セレナーデ:宇宙船情報

 衝突後にユッキー社長から連絡があり、クレイエール本社の無事と仕事の再開の相談があるから明日から出社して欲しいとありました。会社着くと、シノブ専務も来られており、ユッキー社長から、

    「これから山から海に人の大移動が起るのと、機能麻痺している機関の再開が始まるわ。クレイエールもいきなり全開に出来ないから、出社した人で出来るところから再起動してちょうだい」
 社会の再起動への混乱は一週間ぐらい続きましたが、街も落ち着きを取り戻して来ています。店舗もいつも通りに開きだしましたし、行き交う人々も安堵感こそありましたが、いつもの日常が戻ってきたように見えます。クレイエールもまたそうで、いつものクレイエールに見えます。


 彗星衝突の様子も徐々にわかって来ていますが、このニュースが出た時には凄い注目を集めました。

    『どうやら宇宙船であった可能性がある』

 世間の話題はこの謎の宇宙船で沸騰というところです。ところがしばらくすると、

    『誤報であり、やはり彗星であった』
 このニュースが報じられました。この辺の真相がどっちかでテレビもマスコミも喧々諤々やっており、過去のUFO映像の特集があったり、もし宇宙船ならどこから来たかの推測番組が盛んに流されましたが、NASAを始めとする合同調査団がきっぱり否定した時点で謎の宇宙船の話も下火になって行きました。


 そんな頃にまた料亭で密談の呼び出しがありました。彗星騒ぎ後の経営方針の確認や、彗星騒ぎでの無断欠勤者への処分方針などの話もありましたが、最後にシノブ専務が大部のファイルをメンバーに配り、

    「社長、やはり宇宙船で良いようです」
    「やっぱりね。でも、隠したがるのよねぇ、当然かもしれないけど」

 シノブ専務はオーストラリアまで出張し、さらに経営戦略本部の調査部をフル動員し彗星墜落の現場情報を集めていたようです。

    「シノブちゃん、どんな具合だったの」
    「宇宙船は大気圏突入後に分解を始め、グレートサンディ砂漠に墜落した頃にはバラバラだって良さそうです。落下物は相当な広範囲に散らばったようで、大げさではなく砂漠中に撒き散らされた状態との情報もあります」
    「だから爆発には至らなかったかな」
    「一部で爆発もあったようですが、これは分解しながらも最後まで大きく残っていた部分が地表に激突した時に生じたもので良さそうです」

 経営戦略本部の調査部もかつては調査課でしたが、クレイエールが世界展開を始めた時に拡大拡充され、今では調査部の下に幾つもの課を抱えています。能力もシノブ専務が長年手塩にかけて育てたもので社内では、

    『クレイエールのCIA』

 こう呼ぶ者も少なくありません。さすがにCIAには及ばないと思いますが、それでもかなりの情報収集能力を持っているのは間違いありません。

    「シノブちゃん、NASAのファイルは読めたの」
    「それが今回の情報管理はCIAも関与しているみたいで手強いところです」

 現代の情報収集は昔ながらの足を使って集めるものも軽視していませんが、ネット経由のハッキングが盛んに行われます。経営戦略本部の調査部にも腕利きは多数いるのですが、彗星情報の管理はかなり厳しいようです。

    「でも一報は出たよね」
    「そうなのです。ですから現時点でつかんでいるのは、初期時点のものが拡散されたものが中心になります。残念ながらNASAを中心とした合同調査団が入ってからは、ギッチリ情報を抑えられてる感じになります」

 でもそこまでバラバラになったのならたとえ意識であっても生存者がいるとは思えないのですが、

    「シノブちゃん、あれのその後は?」

 あれとは宇宙船のニュースが出た時に報じられた写真入りの記事で、カプセルのようなものを見つけたとして報じられたものです。

    「NASAが来た時に回収されてしまい、なおかつタダのタンクで宇宙船とは無関係とされ、さらに発見者はウソつきの工作まで行われたようです」
    「そこまでやるのね。でも、本人に話は聞けたの」
    「残念ながら発見者本人とその家族は既に行方不明となっています。おそらく・・・」
    「そういうことね」
    「取材を行った記者の話は聞くことが出来ました。

 記者もNASAによるニセモノ情報を信じていたようでしたが、見えたカプセルにとくに大きな損傷はなかったとしています。

    「シノブちゃんご苦労様、引き続き調査をお願いするわ」
    「かしこまりました」

 ユッキー社長は、

    「生き残っている可能性は残るわね」
    「ユッキーもやはりそう思うわよね」

 やはり宇宙船はトラブルが発生していたで良さそうです。しかしここまで来て母星に引き返す選択はなく、強引に地球着陸を試みたぐらいでしょうか。宇宙船は分解しながらも、かなりギリギリまで機能は保持していたのではないかとユッキー社長も、コトリ副社長も見ています。

    「社長、そのカプセルって緊急脱出用とか」
    「そうだと考えてる。このカプセルが宇宙船本体から切り離されたのは、十分に計算されたものだと考えてるわ」
    「どういうことですか」
    「人の手によって回収されてる点よ」

 カプセルに入っているのは意識のはずですが、意識だけでは活動できません。宿主である人が必要ですから、人と接触する必要があります。カプセルはマスコミに報道されたぐらいですから、それなりの人数がいるところに運ばれた事になります。

    「そうなると、取材が行われた街なりにすでに新たな神は拡散している可能性があるのですか」
    「否定は出来ないけど、神が見えるのは現時点ではわたしとコトリとユダぐらいしかいないのよ。それも目に見える範囲だけだから、ちょっと追いきれない感じだねぇ」

 そうだった、ミサキにも見えないんだよね。

    「でも手はあるわ。シノブちゃんにやってもらってる」
    「どうな手ですか」
    「地球の神と似てるのなら、強大であればあるほど地球語は話せないってこと。人格ごと入れ替わるからねぇ」
    「でも弱ければ」
    「その程度は問題にならないの」
    「地球の神と違っていたら」
    「そこまではわからないわよ。でも、心配し過ぎても仕方ないわ。それとね、これでね、もし戦いになっても純神同士の戦いになるわ」
    「どういうことですか」
    「母星の超兵器を運んでいたとしても、そっちの方は確実にオシャカになってるから」

 ここでちょっと話題が変わってしまうのですが、

    「ところで社長、あの泊まり込みの期間中ですが」
    「ちゃんとやってたよ」
    「どれだけ飲まれたのですか」
    「ちょっとだけよ」
 ビールの空き缶だけでも軽トラ一杯分ぐらいあって腰を抜かしました。それ以外にも、空き瓶のヤマ、ヤマ、ヤマ。いつのまにこれだけ買いこんでいたかと思うほどでした。まあ、喧嘩されなかっただけ良かったと思うしかありません。